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昭和カキ氷

2010/08/07 Sat 23:57

ガキの頃、小学校の裏にうどん屋がありました。
今にも潰れそうなボロボロのうどん屋です。
そのうどん屋は夏になると、小学生を狙ってカキ氷を出してました。

1杯40円。
練乳を掛けると50円。

あの味が、どうしても忘れられないんです・・・・

0576-0601.jpg

僕は今までに何度か刑務所に入った事があるんですが、あの中と言うのは朝から晩まで食い物の話しばかりです。
全身にイレズミを彫った兄ぃや、前科10犯の常習犯、雑誌にも載るような大物親分なんかが、明けても暮れても食い物の話しばかりしているのです。

シャバに出たらまず何を喰うか?

刑期も残す所数ヶ月になって来ますと、もうそんな事で頭が一杯です。
家族の事とかオンナの事とか社会復帰の事とか色々考えなくっちゃならないんだけど、しかし、まずは何を喰うかが一番の問題になるのです。

ま、実際は、シャバに出てみると、中で考えていたアレも喰いたいコレも喰いたいと思ってた物なんて、全く食べたくなくなるんですけどね。
シャバに出ると、もう何にも喰いたくないし動きたくないし考えたくないし、でもやたらと興奮してるから目なんかギラギラとしちゃって眠れなくなるし、数日は完全にバカになってしまうんですよね。

で、そんな刑務所ん中で、シャバに出たら何が一番食べたいかってのをよく皆で話してたんですけど、意外な事に、「マックが喰いたい」ってヤツが多かったんですよね。
で、ダントツの1位はカキ氷。
なぜだか冬でもカキ氷。
で、その中でもやっぱり「いちご」が大人気なんですよ。

そういう僕も、誰が何と言おうとカキ氷でした。
最後の務め(4年6月)の出所が、丁度、ギラギラと太陽が照りつける夏真っただ中だったものですから、特にそう思ったのかも知れません。

そして出所して2、3日経った頃だと思います(出所後三日間は廃人になります)。
友人と会う為に、表参道のオシャレなオープンカフェに行きました(前科者がそんな所で待ち合わせする方がおかしい!)。

メニューには、まるでオモチャのようなとっても甘~い物が沢山並んでいます。
生クリームたっぷりのチョコレートパフェなんて、刑務所ならば定価2万円でも全然普通で売れちゃいます。
そんな夢と幻を目の前にして、僕は、どれにしようかと悩みに悩んだ挙げ句、ちゃんと公約通り「いちごカキ氷」を注文しました。

友人はまだ来ていません。待ち合わせ時間よりも随分と早くきてしまったようです(ムショボケしていると時差がおきます)。
僕は、赤いエプロンのボブカットのお姉ちゃんが持って来てくれた「いちごカキ氷」を目の前にして、心の中で、なぜか「ざまぁみろ!」と叫びました。

ニヤニヤと不気味に笑いながら背筋をピンと伸ばします。
そして両手を合わせ「いただきます!」と、ついつい懲役の癖で叫びますと、ボブカットの姉ちゃんが僕に振り向き「クスッ」と笑っておりました。

スプーンを持ちます。
いよいよです。
まさに女のパンツを脱がせるが如く、ギラギラと目が輝いております。

氷の白い部分をサクサクサクッと崩します。
勃起しそうです。
真っ白な氷にダラリと垂れる真っ赤ないちごシロップは、あの時に見たお袋の血の色よりも赤いのです。

銀のスプーンでザクッと掬うと、半溶けのシャバシャバカキ氷が東京の太陽の光でキラキラ輝きます。
それを恐る恐る口に運びます。
ピリっとした冷たさが口の中に広がり、なんともいえない甘さが舌の上で蕩けます。

・・・が、違います。
そのカキ氷、何かが違うのです。

これは僕が求めていた氷いちごではないのです!

シロップが今風の味なのです!
やたらめったら気取った「甘さ」なのです!
氷の砕け具合も違っておりました!
氷がめちゃくちゃ繊細で、まるで雪のようにサラサラとして細かいのです!

これはいかん!

そう思った僕は、さっそく次の日から新宿中のカキ氷を喰いまくりました。
しかし、どの店のカキ氷を喰っても同じでした。
シロップがやたらと薬臭いというか変な甘さなのです。
そしてやっぱり氷もサラサラ。

「くそっ!」と思いながらも、ふと気付きました。
そうです。地元ならばあの懐かしのカキ氷が喰えるかも知れないのです。

僕はさっそく地元に向けて車を走らせました。
出所後、お袋の顔も見てない親不孝者でしたから、カキ氷を喰うついでに実家に顔でも出そうと、お袋が好きなTOPSのチョコレートケーキをおみやげに買い、車を猛ダッシュで走らせたのでした。


さて、そのうどん屋は、当時、小学校の裏の細い路地にひっそりと佇んでいました。
僕はすっかり変わってしまった近代的な学校の校舎を見ながら、何か嫌な予感を感じながらも細い路地を歩いていきました。

昔と変わらぬ懐かしい路地でした。
下町というのは、貧乏人がいつまでも居座っているためか、もしくは土地が売れないためか、その風景は昔とあまり変わっていません。

しばらく行くと源五郎の家を見つけました。
源五郎と言うのは、元ヤクザのペンキ屋で、シャブを打っては他人の家の壁を勝手に塗ってしまい、後ほど汚ねぇイレズミをチラつかせては法外な料金を請求に来ると言うアナーキーな親父です。
僕達はガキの頃、何度このキチガイ親父に殴られた事か。
しかし、源五郎の家は野良猫一匹いる気配もなくシーンと静まり返っていました。
ヤツが生きてればもう70は過ぎています。
あの糞親父も遂にロクっちまったようです。

そんな事を考えながら先を進むと、いよいよ見えて来ましたうどん屋。
うどん屋は昔のまんま、ちゃーんとその場所にありました。
しかし、嫌な予感通り、そのうどん屋はもう随分前からやってないオーラを出しております。

僕は、うどん屋の錆びたトタン看板を見上げながら、幼なじみのケースケに電話をしました。
このケースケと言うヤツも何度も懲役ばかり行ってる懲役太郎でして、もう面倒クセぇから府中に住民票移しちまおうと思ってね・・・などと真剣な顔して言うバカです。

僕はそんなケースケに聞きました。
「おい、昔、ガッコの裏にあったうどん屋なんだけどさぁ、ここ、もうやってねぇの?」
電話口のケースケは、いきなりそんな事をいいだす僕に「もしかしてムショボケか?」とケラケラと笑いました。

その後、ケースケから聞いた情報によりますと、このうどん屋は数年前に町金から抵当で押さえられ、一家揃ってどこかに消えて行ったという事でした。

僕は正直言って嘆きました。
うどん屋の親父がいくらの借金あったか知りませんが、せめて僕が出所するまで頑張っていてくれたら僕が1杯40円のカキ氷を腹一杯食べて、少しでも借金の返済の手助けしてやれたのにと激しく悔み、うどん屋の看板に小便をひっかけて新宿に戻ったのでした。

うどん屋の親父が薄汚れた軍手を嵌めた手で木箱の氷箱から「よっこいしょ!」と氷の塊を出しては、あの手掻き機でガリガリとやっていた、大粒氷のカキ氷。
ひたすら砂糖の甘さがいつまでも口に残る、イチゴにレモンにメロンのシロップは、どれを舐めても同じ味。
ランニングシャツの洟垂れ小僧達が五十円玉を握りしめ、先に喰ってる野郎をジッと見つめながら、汗だくになっては今か今かと己のカキ氷を待ちわびていたあの路地裏。
源五郎のアメ車がドドドッと細い路地に入って来ると、舌ベラをいちごシロップで真っ赤に染めた下町のガキ共が「糞ジジイ死ね!」と一斉に叫び、いきなり奇声をあげてアメ車から飛び出して来た源五郎に、蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げ回ったあの路地裏。

あの時のあの路地裏のカキ氷は、もう喰えないのです。

それから数日後。
新宿に帰った僕は、もしかしたら・・・という願いを込め、新宿花園神社に向かいました。
その当時、その神社のすぐ近くで商売していたテキ屋のおっさんを尋ねたのです。

テキ屋の親父は、欠けた指を器用に操りながらベビーカステラをコロコロと焼いていました。
「おっさん、元気」
水引をヒョイと掻き分け三寸を覗き込むと、おっさんは抜けた歯を剥き出して「いつ出て来た」と笑いました。

僕はおっさんにさっそく相談しました。
ガキの頃に喰った昔のカキ氷がどーしても喰いたいんだと。

するとおっさんは言いました。
「あんなもん。昔も今も全然変わっちゃいねぇよ。ありゃ昔っから明治屋のカンカンシロップに水飴をドホドボと足してさ、色入れてグチャグチャに掻き混ぜてただけだよ。今でもどこでもやってるよ」

おっさんはそう言いますが、しかし、明らかにあの頃のシロップと今のシロップは違います。

納得できないそんな僕を見て、おっさんは薄汚れた日本手拭で汗を拭きながらボソっと言いました。

「カキ氷が変わったんじゃねぇよ。おめぇが親父になったんだよ」



シャバに出たらまず何を喰うか。
今、シャバにいるのに、それでも、ふと、そう思う事があります。
そんな時、やっぱり僕の頭には、あの着色料たっぷりのシャバシャバのカキ氷が浮かんできます。

時間が止まる刑務所の中は、ガキの頃の記憶を呼び起こしてくれます。
ガキの頃に喰った味を思い出させ、昔の女の匂いを思い出させ、そしてガキの頃にいつも聞いてたあの曲を思い出させてくれます。

そんなガキの頃にすごく好きだった曲を先日発見しました。
「アンデルセン物語」っていうアニメのエンディング曲なんですけど、これは僕が4才か5才くらいの時に放映されてたテレビなので、知ってる人はほとんどいないと思います(古い虫プロのマンガですからHaploさんならわかるかも)。

この曲があれば僕は速攻で子供に戻れます。
だからもう刑務所に行かなくてもガキの頃を楽しく思い出せるのです(◞≼◎≽◟◞౪◟◞≼◎≽◟) <クス♪


(昔のマンガは妙に絵が怖いです。でも、そこが妙に温かい・・・なんて思うのは、おっさんとおばさんだけです)

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