怖い夜の過ごし方
2010/05/22 Sat 00:34
あんなもん歌舞伎町のゴロツキ共に比べたらなぁんにも怖かねぇよ。
そう自分に言い聞かせます。
しかし、確かに歌舞伎町のゴロツキは殴ってきたり蹴飛ばしてきたり、凄いヤツにになると包丁振り回したり鉄砲撃って来たりする気狂いもいますから、そんなのに比べるとお化けなんてのは全然大した事ないのですが、しかしそれでもやっぱり僕は歌舞伎町のゴロツキよりもお化けの方が断然恐いです。
しかし、そんな僕は実際にお化けを見たことがありません。
それは、
見そうな気配を感じた時にはなんらかの対処をしているからです。
例えば、寝る前に「なーんかヤな気がするなぁ・・・」と思った時は、素直に寝ません。
そんな時はもちろん22才の同居人も道連れです。
明るくなるまでDVDを見ています。
ただし、そんな時に見るDVDというのは慎重に選ばなければなりません。
ただその番組が「明るいから」という理由で選んでいると、とんでもない目に遭わされるのです・・・
昔から僕は、ヤーな気がした時は寝ない少年でした。
その頃、そんな時の為にと、僕は事前に「昼の番組」をビデオで3倍録画(6時間録画可能)しておき、「緊急ボックス」と名付けたビデオボックスに保管しておいたのです。
と、申しますのは、僕が若い頃は今のようにテレビの深夜放送というのが盛んではなく、深夜2時を過ぎますと、いきなりテレビの画面がスッと静かになり、やたらと真面目な声で「違法無線はやめましょう」や「覚醒剤はやめましょう」といったアナウンスが流れ出し、しかもその時の画面は、子供がクレヨンで書いた不気味な絵なんかを背景にしたりして、それはもう明らかに夜更かししている者を怖がらせようとしているとしか思えないような、そんな怖いテレビに変身するのです。
普通でもヤな気がしているというのに、そんなモノを見せられた日にゃ、僕は間違いなく朝を待ち切れずに自殺してしまうでしょう。
ですから、そんな時の為に、ヤな気がした夜なんかは、事前に録画しておいた「昼の番組」を真夜中に垂れ流して、あたかも今が昼間のように振舞ったりしながら自分を誤魔化しながらヤな夜を切り抜けるのです。
そもそも僕という男は、大晦日に録画した「ゆく年くる年」を、蝉が鳴きわめく真夏の太陽の下で見るくらいの「風流な男」でございます。
真夜中に見る「ごきげんよう」や「笑っていいとも!」が嫌いなわけがございません。
しかしある時の事です。
あれは、ニュースキャスターの逸見さんという人がまだ生きていた時の事ですから、僕がまだ17才くらいの時だったと思います。
僕はその頃、ある地方でアパートを借りて1人で住んでいました。
そのアパートがこれまた不気味なのでございまして、今思い出しても今夜眠れなくなってしまいそうなくらい気味の悪いオンボロアパートでした。
近所の銭湯のババアが言うには、そのアパートは終戦直後に中国人が建てたものらしく、トイレ・洗面所は共同の木造2階建てです。
裏には大きな寺があり窓から墓場が見えます。しかもその墓場の奥には数百体の水子地蔵がピラミッドのように積み重ねられており、一番テッペンに立っている赤子を抱いたお地蔵さんは2メートル近くもあり、そいつが24時間態勢で僕の部屋をジッと見つめているのです。
そんなアパートの住人もおかしなヤツばかりでして、僕の隣の部屋で一人暮らししていた50くらいのおばさんは夜中に突然叫びだしたりしますから、もう怖くて怖くて堪りません。
そんなアパートでヤな気がする事はしょっちゅうで、その夜も妙に背筋がソワソワとし、とてもではございませんが眠れるような状態ではありませんでした。
そんな夜は、さっそく3倍録画ビデオの登場です。
僕はお地蔵さんがジッと見ている窓のカーテンをキッチリと閉め、部屋中の電気と言う電気を全て付けますと、夜中の0時きっかりに再生ボタンを押しました。
なぜ0時きっかりじゃないとダメかと申しますと、この3倍録画のビデオは6時間「昼の番組」が録画されているわけでして、0時に再生を押せばテープが終わるのが朝の6時、つまり6時ならもう外は明るくなっているわけで、ぴったり朝まで昼を味わえるのです。
しかしこれが10時とか11時といった時間に再生ボタンを押してしまいますと、テープが終わるのが4時とか5時であり、その時間はまだ薄暗いわけで(むしろ一番怖い時間帯)、その時、慌てて巻き戻ししようものなら、その間中テレビ画面は「砂の荒らし」もしくは「虹画面」であり、部屋はシーンと静まり返ってしまうのです。
これはかなり怖いです。
ですから、0時きっかりに再生ボタンを押さないと、あとあと大変な目に遭うのです。
さて、その夜、0時きっかりに再生ボタンを押した僕は、「♪お昼休みはウキウキウォッチング♪」というなんとも馬鹿げた歌を歌う羽賀研二なんか眺めながら完全に安心しきっていました。
その時のテレホンショッキングは、今でもはっきり覚えておりますアンルイスでした。
アンルイスの舌ったらずな声を聞きながら、早く夜が明けてくれねぇかなぁ・・・などとビーバップ・ハイスクールの単行本などをパラパラ捲っておりますと、突然、窓の外から「わあーっ!」というおっさんの叫び声が聞こえました。
夜中の0時です。夜中の0時に寺で叫ぶやつなど妖怪以外に考えられません。
僕はすかさず聞こえなかったフリを決め込みました。
下手に脅えたりすると、妖怪に付け入られそうな気がしたのです。
僕はわざと物音が聞こえないようにする為に「♪ふんふん・・・♪ふふふん・・・」と鼻歌を歌いながらビーバップ・ハイスクールを読み、自分を誤魔化そうとしております。
しかし、内心は心臓がバクバクしていた僕は、ビーバップ・ハイスクールの「トオル君もヒロシ君ももういいかげんにして!」という泉今日子のセリフばかり何度も何度もリピートしたままでした。
その恐怖は「笑っていいとも!」が終わり「ごきげんよう」が始まってもまだ続いておりました。
その後のP&G提供の昼ドラが始まった頃にはなんとか恐怖は過ぎ去り、あのおっさんの「わあーっ!」という叫び声もやっと脳裏から消え去ってくれました。
しかしその後です。
確かに僕はその不気味な物音を聞きました。
いや、これは本当です、それは「空耳」とか「思い込み」ではなく、間違いなくその物音は聞こえました。
その音は、玄関から聞こえてきました。
そのアパートは、玄関を入ってすぐ4帖、そして奥に6帖と2間あり、僕は奥の六畳で寝転がっていたのですが、確かにその時、玄関に人が立っている時の「ジリジリ」っという靴の音がしたのです。
その時の僕は、あえて後を振り向きませんでした。
もし、後を振り向いて、そこに気が狂ったおっさんが立っていたら、これはもう、今後の人生を歩んで行く自信はございません。そう、自殺するしかないのです。
ですから僕はあえて知らん顔しておりました。
知らん顔したまま、「愛徳のシャバ僧のくせして上等じゃねぇか」というセリフを何度も何度も必死にリピートしておりました。
どのくらい時間が経ったでしょうか、僕は漫画のページを捲る事も目の前のメローイエローを飲む事も余儀なくされております。
まるで蝋人形なのです。
怖くて怖くて動けなくなっているのです。
そんな時、唯一僕を励ましてくれていた昼番組。
しかし、そんな昼番組は・・・・
昼のワイドショー「3時のあなた」に突入しました。
いきなり画面からけたたましいサイレンが鳴り出しました。
「現場は騒然としております!あっ!今またケガをされた方が運び出されようとしております!」
破壊されたビルの前でレポーターが叫んでおります。
テレビの画面には、タンカーで運ばれる血まみれのケガ人を背景に
「ビル破壊!ガス爆発死者6名!」
というオドロオドロしいタイトルが殴り書きされ、ついでにBGMもホラー映画そのものなのです。
深夜2時30分でした。
草木も眠る丑三つ時に、こんなテレビを見ていたのは、きっと日本で僕一人でございましょう。
画面に、血まみれのサラリーマンが「ギャーっ!」と叫びながら走り去るシーンが何度も何度も繰り返し映し出されます。
ビデオを変えようにも変えられません。ビデオの停止ボタンを押した瞬間に、
ジャァァァァァァァァァァァっという砂の荒らしか
若しくは、
ピィィィィィィィィィィィィィィという発信音
が、部屋中に響き渡り、「笑っていいとも!」まで巻き戻ししている間にも僕はメローイエローの瓶を叩き割り、それで頸動脈をブッ千切る恐れがあるのです。
ですからもうそのまま我慢するしかございません。
身動きひとつできないのです。
そうやってジッとしておりますと、ふいに、さっきお寺で叫んでいたのはこの事故で死んだ死者達ではないか、などという不気味な妄想が頭を過ります。
そして、今、玄関でジッと立っているこの人も・・・・
そう思った瞬間、再び背後から「ジリリ」っという音が聞こえた気がしました。
サザエさんが見たい!
心からそう思った夜でした。
・・・・・・・・・・・・・
どのくらい動かずにいたでしょうか。
曲げたままの肘は何度痺れた事でしょう。
やっと恐怖の「惨事のあなた」は終了し、テレビ画面ではおニャン子クラブが変な踊りを踊りながらそんな僕にエールを送ってくれていました。
鶴太郎が笑い、とんねるずが叫ぶ。
時計を見ると5時15分。
心の中で坂本龍馬が「日本の夜明けは近いぜよ!」と叫びます。
窓の外から天使のようなスズメの鳴き声が聞こえて来ました。
走り抜ける新聞配達のオートバイの音が、まるで太平洋を漂流中に出会ったヘリコプターの音のように聞こえます。
ふいに「ざまあみろ・・・」と僕は呟きました。
そして「もう二度とフジテレビは録画しないからな・・・」と誓いながら、そこで初めて生温いメローイエローを一口飲みました。
明るくなればこっちのもんだ・・・・
そう思ってゆっくりと起き上がりました。
眩しい太陽の光を部屋に取り込もうと、窓に向かってズリズリと近寄ります。
ふいに、それまでテレビで騒いでいた「夕焼けニャンニャン」が急に静かになりました。
「ガス爆発の続報です」
ニュースセンターの逸見さんが、神妙な顔付でそう呟くと、死者・行方不明者の名前を読み上げます。
めちゃくちゃ不気味です。しかし、夜明けはもう目の前なのです。
僕は窓際までいくと、一気にカーテンを開きました。
「うっ!」
まだ完全に夜は明けてはいませんでした・・・・
どんよりと薄暗いお寺の境内で、無数の真っ黒なカラスを従えた水子巨大地蔵がジッと僕を見つめていました。
そしてまたしても背後でジリリっという音が聞こえた気がしました。
逸見さんが、まるでお経を唱えるかのように死者の名前を読み上げます。
もう絶体絶命です。
・・・・・・・・・・・・・・
このように、深夜のビデオを一歩間違えますと、とんでもない大惨事を巻き起こす可能性がございます。
ですから、DVDは事前に細かくチェックしておいたほうがよろしいかと思います。
念の為、寝る前に「ヤな気がするな・・・」と思った時に見るベスト3を御紹介しておきましょう。
1位 サザエさん
これは鉄板です。絶対と言いきれる程、サザエさんに怖いシーンはございません。
但し、古いサザエさんには注意して下さい。昔のサザエさんは、背景が動いておりません。
カツオだけが動いて、その後にいる花沢さんや中島君はピクリとも動かなかったりしますので、これはお気をつけ下さい。妙に不気味です。
2位 さんまのからくりテレビ
こちらも安心できます。ヤケに明るいです。
但し、CMには気を付けて下さい。日曜日のこの時間帯というのは視聴率が高い為、スポンサーも大手ばかりです。
となると、例の「いま一度、心からのお願いです・・・」といった「お詫びCM」が登場する危険性も高いのです。
CMは事前にチェックしておきましょう。
3位 おかあさんといっしょ
深夜に見る「おかあさんといっしょ」ほど興奮させられるものはございません。
丑三つ時、画面を走り回る子供達と一緒についついアナタも走り回ってしまう事でしょう。
但し、相手は天下のNHKです。
いつ裏切るかわかりません。
突然、「台風情報」や「津波情報」といった恐怖を与えられるかも知れませんので、これも要チェックです。
さぁ、みなさん。
これでもう夜を怖れなくても大丈夫です。
心置きなく、ヤな夜をお過ごし下さい。
尚、最近の私は、ヤな気がした夜は歌舞伎町に繰り出すようにしております。
眠らない街・歌舞伎町は、24時間、僕を迎え入れてくれるのです。
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そう自分に言い聞かせます。
しかし、確かに歌舞伎町のゴロツキは殴ってきたり蹴飛ばしてきたり、凄いヤツにになると包丁振り回したり鉄砲撃って来たりする気狂いもいますから、そんなのに比べるとお化けなんてのは全然大した事ないのですが、しかしそれでもやっぱり僕は歌舞伎町のゴロツキよりもお化けの方が断然恐いです。
しかし、そんな僕は実際にお化けを見たことがありません。
それは、
見そうな気配を感じた時にはなんらかの対処をしているからです。
例えば、寝る前に「なーんかヤな気がするなぁ・・・」と思った時は、素直に寝ません。
そんな時はもちろん22才の同居人も道連れです。
明るくなるまでDVDを見ています。
ただし、そんな時に見るDVDというのは慎重に選ばなければなりません。
ただその番組が「明るいから」という理由で選んでいると、とんでもない目に遭わされるのです・・・
昔から僕は、ヤーな気がした時は寝ない少年でした。
その頃、そんな時の為にと、僕は事前に「昼の番組」をビデオで3倍録画(6時間録画可能)しておき、「緊急ボックス」と名付けたビデオボックスに保管しておいたのです。
と、申しますのは、僕が若い頃は今のようにテレビの深夜放送というのが盛んではなく、深夜2時を過ぎますと、いきなりテレビの画面がスッと静かになり、やたらと真面目な声で「違法無線はやめましょう」や「覚醒剤はやめましょう」といったアナウンスが流れ出し、しかもその時の画面は、子供がクレヨンで書いた不気味な絵なんかを背景にしたりして、それはもう明らかに夜更かししている者を怖がらせようとしているとしか思えないような、そんな怖いテレビに変身するのです。
普通でもヤな気がしているというのに、そんなモノを見せられた日にゃ、僕は間違いなく朝を待ち切れずに自殺してしまうでしょう。
ですから、そんな時の為に、ヤな気がした夜なんかは、事前に録画しておいた「昼の番組」を真夜中に垂れ流して、あたかも今が昼間のように振舞ったりしながら自分を誤魔化しながらヤな夜を切り抜けるのです。
そもそも僕という男は、大晦日に録画した「ゆく年くる年」を、蝉が鳴きわめく真夏の太陽の下で見るくらいの「風流な男」でございます。
真夜中に見る「ごきげんよう」や「笑っていいとも!」が嫌いなわけがございません。
しかしある時の事です。
あれは、ニュースキャスターの逸見さんという人がまだ生きていた時の事ですから、僕がまだ17才くらいの時だったと思います。
僕はその頃、ある地方でアパートを借りて1人で住んでいました。
そのアパートがこれまた不気味なのでございまして、今思い出しても今夜眠れなくなってしまいそうなくらい気味の悪いオンボロアパートでした。
近所の銭湯のババアが言うには、そのアパートは終戦直後に中国人が建てたものらしく、トイレ・洗面所は共同の木造2階建てです。
裏には大きな寺があり窓から墓場が見えます。しかもその墓場の奥には数百体の水子地蔵がピラミッドのように積み重ねられており、一番テッペンに立っている赤子を抱いたお地蔵さんは2メートル近くもあり、そいつが24時間態勢で僕の部屋をジッと見つめているのです。
そんなアパートの住人もおかしなヤツばかりでして、僕の隣の部屋で一人暮らししていた50くらいのおばさんは夜中に突然叫びだしたりしますから、もう怖くて怖くて堪りません。
そんなアパートでヤな気がする事はしょっちゅうで、その夜も妙に背筋がソワソワとし、とてもではございませんが眠れるような状態ではありませんでした。
そんな夜は、さっそく3倍録画ビデオの登場です。
僕はお地蔵さんがジッと見ている窓のカーテンをキッチリと閉め、部屋中の電気と言う電気を全て付けますと、夜中の0時きっかりに再生ボタンを押しました。
なぜ0時きっかりじゃないとダメかと申しますと、この3倍録画のビデオは6時間「昼の番組」が録画されているわけでして、0時に再生を押せばテープが終わるのが朝の6時、つまり6時ならもう外は明るくなっているわけで、ぴったり朝まで昼を味わえるのです。
しかしこれが10時とか11時といった時間に再生ボタンを押してしまいますと、テープが終わるのが4時とか5時であり、その時間はまだ薄暗いわけで(むしろ一番怖い時間帯)、その時、慌てて巻き戻ししようものなら、その間中テレビ画面は「砂の荒らし」もしくは「虹画面」であり、部屋はシーンと静まり返ってしまうのです。
これはかなり怖いです。
ですから、0時きっかりに再生ボタンを押さないと、あとあと大変な目に遭うのです。
さて、その夜、0時きっかりに再生ボタンを押した僕は、「♪お昼休みはウキウキウォッチング♪」というなんとも馬鹿げた歌を歌う羽賀研二なんか眺めながら完全に安心しきっていました。
その時のテレホンショッキングは、今でもはっきり覚えておりますアンルイスでした。
アンルイスの舌ったらずな声を聞きながら、早く夜が明けてくれねぇかなぁ・・・などとビーバップ・ハイスクールの単行本などをパラパラ捲っておりますと、突然、窓の外から「わあーっ!」というおっさんの叫び声が聞こえました。
夜中の0時です。夜中の0時に寺で叫ぶやつなど妖怪以外に考えられません。
僕はすかさず聞こえなかったフリを決め込みました。
下手に脅えたりすると、妖怪に付け入られそうな気がしたのです。
僕はわざと物音が聞こえないようにする為に「♪ふんふん・・・♪ふふふん・・・」と鼻歌を歌いながらビーバップ・ハイスクールを読み、自分を誤魔化そうとしております。
しかし、内心は心臓がバクバクしていた僕は、ビーバップ・ハイスクールの「トオル君もヒロシ君ももういいかげんにして!」という泉今日子のセリフばかり何度も何度もリピートしたままでした。
その恐怖は「笑っていいとも!」が終わり「ごきげんよう」が始まってもまだ続いておりました。
その後のP&G提供の昼ドラが始まった頃にはなんとか恐怖は過ぎ去り、あのおっさんの「わあーっ!」という叫び声もやっと脳裏から消え去ってくれました。
しかしその後です。
確かに僕はその不気味な物音を聞きました。
いや、これは本当です、それは「空耳」とか「思い込み」ではなく、間違いなくその物音は聞こえました。
その音は、玄関から聞こえてきました。
そのアパートは、玄関を入ってすぐ4帖、そして奥に6帖と2間あり、僕は奥の六畳で寝転がっていたのですが、確かにその時、玄関に人が立っている時の「ジリジリ」っという靴の音がしたのです。
その時の僕は、あえて後を振り向きませんでした。
もし、後を振り向いて、そこに気が狂ったおっさんが立っていたら、これはもう、今後の人生を歩んで行く自信はございません。そう、自殺するしかないのです。
ですから僕はあえて知らん顔しておりました。
知らん顔したまま、「愛徳のシャバ僧のくせして上等じゃねぇか」というセリフを何度も何度も必死にリピートしておりました。
どのくらい時間が経ったでしょうか、僕は漫画のページを捲る事も目の前のメローイエローを飲む事も余儀なくされております。
まるで蝋人形なのです。
怖くて怖くて動けなくなっているのです。
そんな時、唯一僕を励ましてくれていた昼番組。
しかし、そんな昼番組は・・・・
昼のワイドショー「3時のあなた」に突入しました。
いきなり画面からけたたましいサイレンが鳴り出しました。
「現場は騒然としております!あっ!今またケガをされた方が運び出されようとしております!」
破壊されたビルの前でレポーターが叫んでおります。
テレビの画面には、タンカーで運ばれる血まみれのケガ人を背景に
「ビル破壊!ガス爆発死者6名!」
というオドロオドロしいタイトルが殴り書きされ、ついでにBGMもホラー映画そのものなのです。
深夜2時30分でした。
草木も眠る丑三つ時に、こんなテレビを見ていたのは、きっと日本で僕一人でございましょう。
画面に、血まみれのサラリーマンが「ギャーっ!」と叫びながら走り去るシーンが何度も何度も繰り返し映し出されます。
ビデオを変えようにも変えられません。ビデオの停止ボタンを押した瞬間に、
ジャァァァァァァァァァァァっという砂の荒らしか
若しくは、
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が、部屋中に響き渡り、「笑っていいとも!」まで巻き戻ししている間にも僕はメローイエローの瓶を叩き割り、それで頸動脈をブッ千切る恐れがあるのです。
ですからもうそのまま我慢するしかございません。
身動きひとつできないのです。
そうやってジッとしておりますと、ふいに、さっきお寺で叫んでいたのはこの事故で死んだ死者達ではないか、などという不気味な妄想が頭を過ります。
そして、今、玄関でジッと立っているこの人も・・・・
そう思った瞬間、再び背後から「ジリリ」っという音が聞こえた気がしました。
サザエさんが見たい!
心からそう思った夜でした。
・・・・・・・・・・・・・
どのくらい動かずにいたでしょうか。
曲げたままの肘は何度痺れた事でしょう。
やっと恐怖の「惨事のあなた」は終了し、テレビ画面ではおニャン子クラブが変な踊りを踊りながらそんな僕にエールを送ってくれていました。
鶴太郎が笑い、とんねるずが叫ぶ。
時計を見ると5時15分。
心の中で坂本龍馬が「日本の夜明けは近いぜよ!」と叫びます。
窓の外から天使のようなスズメの鳴き声が聞こえて来ました。
走り抜ける新聞配達のオートバイの音が、まるで太平洋を漂流中に出会ったヘリコプターの音のように聞こえます。
ふいに「ざまあみろ・・・」と僕は呟きました。
そして「もう二度とフジテレビは録画しないからな・・・」と誓いながら、そこで初めて生温いメローイエローを一口飲みました。
明るくなればこっちのもんだ・・・・
そう思ってゆっくりと起き上がりました。
眩しい太陽の光を部屋に取り込もうと、窓に向かってズリズリと近寄ります。
ふいに、それまでテレビで騒いでいた「夕焼けニャンニャン」が急に静かになりました。
「ガス爆発の続報です」
ニュースセンターの逸見さんが、神妙な顔付でそう呟くと、死者・行方不明者の名前を読み上げます。
めちゃくちゃ不気味です。しかし、夜明けはもう目の前なのです。
僕は窓際までいくと、一気にカーテンを開きました。
「うっ!」
まだ完全に夜は明けてはいませんでした・・・・
どんよりと薄暗いお寺の境内で、無数の真っ黒なカラスを従えた水子巨大地蔵がジッと僕を見つめていました。
そしてまたしても背後でジリリっという音が聞こえた気がしました。
逸見さんが、まるでお経を唱えるかのように死者の名前を読み上げます。
もう絶体絶命です。
・・・・・・・・・・・・・・
このように、深夜のビデオを一歩間違えますと、とんでもない大惨事を巻き起こす可能性がございます。
ですから、DVDは事前に細かくチェックしておいたほうがよろしいかと思います。
念の為、寝る前に「ヤな気がするな・・・」と思った時に見るベスト3を御紹介しておきましょう。
1位 サザエさん
これは鉄板です。絶対と言いきれる程、サザエさんに怖いシーンはございません。
但し、古いサザエさんには注意して下さい。昔のサザエさんは、背景が動いておりません。
カツオだけが動いて、その後にいる花沢さんや中島君はピクリとも動かなかったりしますので、これはお気をつけ下さい。妙に不気味です。
2位 さんまのからくりテレビ
こちらも安心できます。ヤケに明るいです。
但し、CMには気を付けて下さい。日曜日のこの時間帯というのは視聴率が高い為、スポンサーも大手ばかりです。
となると、例の「いま一度、心からのお願いです・・・」といった「お詫びCM」が登場する危険性も高いのです。
CMは事前にチェックしておきましょう。
3位 おかあさんといっしょ
深夜に見る「おかあさんといっしょ」ほど興奮させられるものはございません。
丑三つ時、画面を走り回る子供達と一緒についついアナタも走り回ってしまう事でしょう。
但し、相手は天下のNHKです。
いつ裏切るかわかりません。
突然、「台風情報」や「津波情報」といった恐怖を与えられるかも知れませんので、これも要チェックです。
さぁ、みなさん。
これでもう夜を怖れなくても大丈夫です。
心置きなく、ヤな夜をお過ごし下さい。
尚、最近の私は、ヤな気がした夜は歌舞伎町に繰り出すようにしております。
眠らない街・歌舞伎町は、24時間、僕を迎え入れてくれるのです。
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