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男の意地

2011/07/30 Sat 11:22

男の意地
負けず嫌い。
精神的なマゾな方は別として、誰でも負けよりも勝ちの方がいいに決まっています。

完全に負けているのに、それでも負けを認めないヤツがいます。
そんなヤツに向かって「男らしくない」と言う人がいます。
しかし、果たしてそうでしょうか。

負けているのに負けを認めない。
なんと男らしい男でしょう。
そんなヤツはまさに男の中の男だと、僕は思います。

そんな意地っ張りな男が新宿にいました。
古い話しでございます。

あれは、おニャン子クラブが流行っていた頃でした。
歌舞伎町にボンという名の不良がいました。
僕の2つか3つ先輩でしたから、僕達は彼をボンちゃんと呼んでいたのですが、ボンちゃんは何があろうと絶対に負けを認めない男、つまりバカでした。

喧嘩は最強でした。ボンちゃんは相手が誰であろうと絶対に喧嘩には負けませんでした。
当然です、ボンちゃんは 負けを認めないから負けないのです。
ヤクザに前歯をへし折られても、土方軍団に袋叩きにされて肋骨を折られようとも、ボンちゃんは「俺は負けてない」と言い張ります。

そんなボンちゃんが、ある時、指を詰めました。

男のケジメというやつです。

あれは確か光ゲンジが流行っていた頃です。やたらとローラースケートで滑る変なガキ共がアルタ前にウヨウヨいたのを記憶しております。
ある時、女とメシを喰ったボンちゃんが花園神社を通り抜けようとすると、そこに暴走族が屯していました。
さっそくボンちゃんは暴走族に小遣いを強請ります。
そして、断るリーダー格をぶん殴ってしまいました。
すかさず暴走族のケツ持ち(ヤクザ)が出て来ました。
正直言ってボンちゃんは喧嘩は弱いです。
人一倍に気が強く小熊のように凶暴なくせに、しかしチビのために腕力はまるっきしダメなのです。
そんなボンちゃんはケツ持ちの兄ぃ達にたちまちハンバーグにされてしまいました。

しかしボンちゃんは負けていません。
たとえぺしゃんこのハンバーグにされてもボンちゃんは絶対に負けを認めない男(バカ)なのです。
包帯だらけのボンちゃんは、さっそく翌日からケツ持ちの兄ィ達を探して新宿中を彷徨いました。

噴水公園でローラースケートを履いた変な若者をからかっていた僕達に、包帯だらけのボンちゃんは

「こんなでっけぇ体して眉毛がこんな細くて口の臭せぇパンチ野郎を見なかったか?」

と、カマキリみたいに腫れ上がった紫の両目をギロギロさせながら聞いて来ました。
しかし、そんな野郎は歌舞伎町にはゴロゴロしてますから、とりあえず僕達は、「フウリンの前にすげえデブがいた」とか「オカダヤの前でパンチ軍団を見た」とか「バッティングセンターの親父の口臭はハンパじゃない」などと、好き放題に勝手な事を言っておりますと、傷だらけのボンちゃんは

「そいつは俺がぶっ殺すからよ、見つけたら教えろよ」

と、まるで矢吹ジョーのようなカッコいいセリフを吐き捨て、新宿の雑踏の中へ消えて行ったのでした。

しかし、その矢吹ジョー的なセリフがマズかった。

そんなセリフを歌舞伎町中で言いふらして歩いていたボンちゃん。
当然、そんなセリフは「でっけえ体の眉細口臭パンチ野郎」(以下、口臭デブ)の耳にも届きます。
その口臭デブというのは、栃木から旅を掛けていた(指名手配中という意味です)ヤクザ者で、今は新宿に事務所を持つ組織に所属する現役でした。

ボンちゃんの能書きを耳にした口臭デブは、尻に火鉢を押し当てられた豚のように絶叫し、若いモンを新宿中に駆り出してはボンちゃんのガラを浚いに走らせました。
当然でしょう。たとえ口の臭い肥満体でも、現役で極道張ってる男です。チンピラに「ぶっ殺す」とまで言われて黙っていては歌舞伎町でメシは喰って行けなくなるのです。

数日後、ボンちゃんは歌舞伎町のゲームセンターで女とギャラクシアンをしている所を口臭デブ軍団に身柄を押さえられました。
ガラを浚われたボンちゃんは、口臭デブの女が経営する新大久保の喫茶店に連れていかれ、そこでバシバシにヤキを入れられました。
せっかく治りかけた傷なのにまたしてもミンチに逆戻りです。
しかしボンちゃんはハンバーグにされようとも泣きを入れませんでした。
木刀を脳天に叩き付けられ失禁しても、絶対に詫びは入れなかったと言います。

そんなボンちゃんに助けが入りました。
ゲームセンターでボンちゃんと一緒にいた女が連絡したのでしょう、ボンちゃんを可愛がっていた兄ィが助けに入ったのです。
その兄ィは、口臭デブが所属する組織と同系列の組の幹部で、いつもマリリンモンローのような派手な女を巨大なリンカーン・コンチネンタルに乗せては新宿中を走り回っているという、何ともガイキチな兄ィでしたが、しかし新宿ではなかなか顔役です。

リンカーンの兄ィのおかげで、ひとまず口臭デブ軍団から解放されたボンちゃんでしたが、しかし口臭デブはまだ納得しておりません。
こんなチンピラに、新宿中を「ぶっ殺す」と言いふらされたんだケジメをつけて貰おうかいと、口臭デブは組織の看板を楯にリンカーンの兄ィに詰め寄って来たのです。

リンカーンの兄ィはボンちゃんに言いました。

「いくら用意できる?」

しかし、リンカーンの兄ィのその言葉がボンちゃんの「意地っ張り」に火をつけました。

ボンちゃんはその時、薄ら笑いを浮かべながらリンカーンの兄ィにこう言ったらしいです。
「あんな外道に銭やるくらいなら、花園の乞食にくれてやりますよ」と。
そして一言、「体でケジメ付けます」と・・・。

そう唾を吐いたボンちゃんは、その日の晩に四谷の女のアパートで出刃包丁を小指の関節に這わせ、その出刃の背中を女におもいきり踏んづけてもらいました。
ボンちゃんの小指は、まるで枯れた花びらが落ちるように、簡単にポロッと千切れたらしいです。

指を詰める。
これをその世界ではジギリと言います。
自分で指を切るから自切り。
そんなジギリを入れたボンちゃんは、「ケジメ」として、詰めた小指は口臭デブにくれてやったものの、しかし精神ではまだ口臭デブに負けておりません。

指を詰めたその年、ボンちゃんはリンカーンの兄ィの正式な舎弟となり、その世界に身を投じました。
そう、口臭デブに仕返しをする為だけにボンちゃんは極道になったのです。

負けず嫌いな男でした。
どこまでも意地っ張りなバカでした。

その後もボンちゃんは、歌舞伎町で何度も口臭デブとぶつかり合いながら、ただただ口臭デブを倒す為だけに青春を費やしました。
しかし、ボンちゃんが口臭デブを倒す前に、口臭デブは新宿から姿を消しました。
あれは、僕が少年院に入っていた頃ですから、丁度、とんねるずの「ねるとん紅鯨団」が流行っていた頃だと思います。
口臭デブはでっかい借金だけ残して新宿から姿を消しました。
同時にボンちゃんは極道の「志」というものを失ったのでした。

僕が少年院を出院してくると、目的を失ったボンちゃんは覚醒剤の中を泳いでおりました。

あれだけ意地っ張りで見栄っ張りだったボンちゃんが、ボサボサに伸びきったパンチパーマにヨレヨレのアロハシャツを着て、年下の僕に「金、貸してくれよ・・・」とニヤニヤと笑っております。
僕がポケットに手を入れると、ボンちゃんはまるで別人のように狂った瞳を輝かせながら「ワリぃな・・・」と微笑んでいました。

そんなボンちゃんが歌舞伎町から姿を消したのは、宮沢りえのヌード写真集「サンタフェ」が発売された頃でした。
朝早くアパートにやって来たデコスケ(刑事)に連行されたまま、それっきりボンちゃんは歌舞伎町から姿を消しました。

後に聞いた話しですが、ボンちゃんが大量のシャブを隠し持っている事をデコスケにチンコロ(密告)したのは、四谷のアパートで出刃包丁を踏んづけた女でした。
女はボンちゃんに惚れてました。
女は、シャブに狂うボンちゃんにシャブをヤメて貰いたいが為に、心を掻き毟られる思いでボンちゃんをデコスケに売ったのです。

懲役四年。
執行猶予中だったボンちゃんは、弁当も加算され懲役四年を喰らいました。
しかし、四年の満期を迎えてもボンちゃんは新宿に帰って来ませんでした。
意地っ張りで見栄っ張りだったボンちゃんは、きっと、「女にチンコロされて、どの面下げてジュクに帰れるかっつうの!」と、またそこで意地を張ったのでしょう。
それっきりボンちゃんは消えてしまいました。

バブルが弾けていくようにボンちゃんの名も空しく弾け、いつしかその名を新宿で聞く事はなくなりました。

あれから約20年。
僕の友人が、ある時、歌舞伎町の路地で懐かしい女を見かけました。
そう、あの時ボンちゃんを警察にチンコロした女です。
女にボンちゃんの消息を尋ねると、女はうつろな目をしながら「あんなのとっくに死んじまったよ」とケラケラと笑ったそうです。
あの時、ボンちゃんにシャブをヤメさせようと警察にチンコロした女。
そんな女の吐く息からは、小便のようなアンモニア臭が漂い、見るからにシャブ中だったそうです。

意地っ張りな男でした。
負けず嫌いなバカでした。

そんなボンちゃんがいったいどんな死に方をしたのか誰も知りません。

しかし、あの頃の新宿歌舞伎町で不良をやってたヤツラは口を揃えて言うでしょう。

アイツはそう簡単に死ぬようなゴロツキじゃねぇよ、と……。



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