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非国民親父美容院奮闘日記

2010/02/22 Mon 16:22

親父のくせに、美容院に行って来ました。

私はどーいうワケか数年前から髪を伸ばし始めまして、それからというもの寝る時と風呂に入る時以外はいつも髪を後に束ねているワケでございますが、そんな事から、床屋ではなく美容院に行くようになりました(床屋ですと洗髪が困るのです)。

いつもの美容師さんが交通事故で入院してしまった為、仕方なく22才の同居女が勧める美容院に行ってみたのですが、しかしこれがまたなにやら凄い美容院でして・・・
いわゆるその美容院はカリスマ美容師などと呼ばれるバカタレがウヨウヨしている美容院なわけでして、もうとにかく何から何までカッコウ付けているのでございます。

しかし、アレですね、「オシャレな美容院へ行く親父」ってのは、「田舎者のパリ旅行」に通じるものがございまして、なにやら「身の程知らず」と書かれた大きな看板を背中に背負っているような、そんな感じがして堪りません。

とにかくこの美容院は、客も店員もひたすら年齢層が低く、真っ白な店内には、華やかでファッショナブルな若者達がファッション雑誌なんかをパラパラさせながら、優雅にエレガントにカッコ良くスラリと長い足を組んでおりまして、そんなハイカラな店に、全身黒ずくめのサングラス親父が、演歌歌手のように眉間にシワを寄せながらノソリと現れたわけですから、それはまるで、超有名デザイナーの2010トーキョー・コレクションの打ち上げパーティーの会場に、間違えて迷い込んだ泥だらけのマッドマックスといった感じなのでございます。

待合いコーナーに座っていたギャル達が、一瞬、「ナニアレ」ってな感じで私を睨みます。
腰にガンベルトみたいなモノをジャラジャラと付けた店員達も、「なんだアイツ」ってな感じでチラチラと見ております。

素晴らしく「場違い」なのでございます。

入口カウンターでモジモジと立ちすくむ私は、ここを紹介した22才の同居女を今夜こそはバルコニーで一晩過ごさせてやる、どれだけ泣こうが喚こうが絶対に部屋には入れてやるもんか、と、1人ワナワナと怒りに震えておりますと、いきなりチワワのような女店員がやって来まして、「こちらでお待ち下さい」と、ナニアレ光線のギャル達がいる待合いコーナーに私を案内したのでした。



ギャル達に囲まれながら私は、なぜかヒッチコックの「鳥」の恐怖を覚えました。

そこは、咳払いだって許されない雰囲気でございまして、屁なんてやらかしたらきっとギャル達に袋叩きにされる事でしょう。

そんなギャル達に脅えながらも、ソファーの隅で小さくなっている大っきな黒親父。

そこに再びチワワのような女店員がやって来まして、いきなり私に「御指名ございますか?」と聞きました。

いきなりそんな事を聞かれても・・・と、とたんに脅えた私は、早く返事を出さないと叱られるのではないかという恐怖に陥り、どの娘にしよう!と、慌ててフロアをキョロキョロします。

するとチワワはそんな私を見て「ぷっ」と小さく噴き出し、「初めてですよね?」と、私のそのキャバクラ的行動を戒めました。

「そうです!」と、妙に大きな声で軍隊調な返事をしますと、私の前のソフアーに座っている、ヤキを入れられた田中邦衛のような顔したギャルが私の顔をジロッと睨み、再び私は「ひっ!」と小さくなってしまったのでございました。


チワワは何やら書類の付いたボードを持って私のソファーの横にスっとしゃがみました。
そして、おっかないギャル達が大勢いる前で、チワワはエンピツ片手に「今日はどうなさいますか?」などと高度な質問をしてきます。

いつもなら「今日はアナルと即尺で」などと、バカ親父的なジョークをカマシてやるとこですが、しかし、今ここでそんなジョークを言ったら、きっと大変な事になります。

私はモジモジしながら、蚊の飛ぶような小さな声で「普通に短くカットして下さい・・・」と答えました。

しかしそう答えてしまってから一気に汗が噴き出しました。
そう、「普通に短くカットして下さい・・・」とは、日本語になっていないのであります。

しかし、チワワはそんな意味不明な私の要求に対し、「普通・・・短く・・・カット・・・」と、呟きながら、怪しい書類にセッセと書き込んでいるのでした。



しばらくすると、ギャル達が威嚇して来る待合いコーナーからやっと解放された私は、洗髪コーナーへと連行されました。

しかし、その洗髪コーナーにもギャル達はウヨウヨとおりまして、そこもやはり独特な雰囲気に包まれております。

私は彼女達の怒りに触れぬよう、できるだけ目立たないようにと大きな体を低くさせ、まるで落語家の登場のようにソソクさと洗髪シートに腰を下ろしました。

そんな私の元に、「失礼しまぁーす」と言いながら、若い頃の浅田美代子のような娘さんがやってきました。

美代ちゃんは私の顔を見るなり、意味ありげに「クスッ」と笑いました。

美代ちゃんのその「クスっ」に私はどれだけ救われた事でしょうか。
今まで、散々ギャル達から「いわれなき差別」を受けて来たこの脅えた親父に、なんと美代ちゃんはその真夏の青空に向かって元気に咲いてるヒマワリのような、とっても明るい微笑みを投げ掛けてくれたのでございます!

とたんに嬉しくなった私は、そんな美代ちゃんに「えへっ」と悪戯坊主のような微笑みを返しながらも(バカ)、たとえ今ここで大地震が来たとしても心配するな美代ちゃん、この糞ギャル達の屍を踏み越え、キミだけは絶対に俺が守ってやる、などと、密かに大地震が来る事を祈りながらもそう心で呟いたのでございました。

美代ちゃんは私の膝に、アイボリーの膝掛け毛布をスッと掛けてくれました。

どーしてこの美容院というヤツは、洗髪の時になると必ず膝掛け毛布を掛けるのでしょか。
全然寒くもないのに、なぜかやたらに膝掛け毛布を掛けたがるのです。

私が思うに、恐らく、洗髪時に女性が横になったりすると、スカートの中が見えてしまうという恐れがある事から、きっとこの膝掛け毛布はその対策なのではないかと思うのです。
しかし、そーだとすると、男の私にまで膝掛け毛布を掛けるというのは変ではないか・・・。


そんな事をアレコレと考えていると、洗髪シートがグググッとリクライニングいたしました。
寝っ転がっていく私の真正面に、美代ちゃんの素朴な笑顔が現れ、とたんに恥ずかしくなった私は、ポッと顔を赤らめながら慌てて目を反らします。

そんな私のウブな気持ちを知ってか知らずか、美代ちゃんは、「失礼しまぁーす」と言いながら、天井を向く私の顔に白い油紙のような紙をペロンと乗せました。

これで完全に私の視界は遮断されました。
まさに「目隠しプレイ」の如く、白紙を顔に乗せられた私の目前は、ひたすらホワイト・アウトでございます。

すると美代ちゃんは、私の髪を縛っていたゴムをスポッと外すと、その細い指で私の髪を梳かし始めました。

そこで再びギョッとしました。
そうです、いきなり「フケ」が気になったのです。
そして同時に「頭皮の脂」も心配になってきました。

私は毎日髪を洗っていますが、時々、22才の糞バカ同居女が私の頭を覗き込みながら「わあーっ!凄いフケだぁー!」などと叫んだりして、私に生きている事の苦痛を感じさせたりするのです。

ですから私は、きっと今頃美代ちゃんも「わあーっ、でっけぇフケだぁー」などと思っているのではないかと、もう恥ずかしくて死にたくなって来ました。

しかし、そんな私の気持ちも知らず、美代ちゃんはまだその細い指で手櫛を続けております。

(美代ちゃん!もういいから早く湯をぶっかけておくれ!これ以上、僕に恥をかかせないでくれ!)

そう心で何度も叫びながら、私は白紙の下で唇を噛んでいたのでした。


そんな羞恥プレイにより存分に辱められた私の頭に、やっとシャワーの湯が掛けられ始めました。
親父臭漂う頭皮に、ジンワリと温かい湯が浸透して来ますと、すかさず「熱くないですか?」と美代ちゃんが聞いて来ます。
まるでファッションヘルスでチンチンにシャワーをぶっかけられている時と同じでございます。

シャンプーを泡立て、私の頭をガシュガシュと洗う美代ちゃんの腕の生肌が、時折、私の頬に触れたりします。
私の髪をガシュガシュと激しく洗うその音が、まるでマット洗いでチンポをシコシコされている時の音に聞こえて来ます。

あぁ美代ちゃん、おじさんはもう我慢できませんよ、と、洗髪シートの上で1人悶えておりますと、今度は美代ちゃん、私の頭をグイッと持ち上げ、私のウナジを泡の付いたヌルヌルの手でマッサージするではありませんか。

ヤバい!ヤバいぞ!このまま行くと、おチンチン様がお目覚めになるぞ!

そこで私は「はっ」と気付きました。
そう、この膝掛け毛布が女性だけでなく男性にも必要だということが・・・(たぶん私だけだと思いますが)。


そんな幸せな時間もあっという間に過ぎ、グィーン・・・と洗髪シートを起こされては現実に引き戻された私は、再びギャル達にジロジロと横目で睨まれては、またまた肩身が狭くなります。

そんな時に限って、シートを起こした美代ちゃんが「おつかれさまでしたー」などと叫び、それに答えるかのようにフロアにいたカリスマだかカリクビだかわかんない店員たちも、一斉に「おつかれさまでしたー」と声を揃えて叫びます。

おもわず私も、居酒屋の兄ちゃん口調で「よろこんでー!」と答えてやろうかと思いましたが、しかし、ここはそんなジョークの通用するような場所ではございません。



そんな私は、大勢のギャル達にジロジロと睨まれながらフロアに連行されました。
すると、鏡の前で、実に幸の薄そうな女の美容師が私を待ち構えているではありませんか。

瞬時に私は安心しました。
その、やたらと貧乏臭く、この雰囲気に全く溶け込めていないその美容師(推定34才・独身女性)は、私と同じ匂いがプンプン漂っているのでございます。

いいじゃん、いいじゃん、新宿の花園町っぽくてなかなかいいじゃん。

とたんに気が楽になった私は、その幸の薄そうな女に「お願いしますよ」などと粋に微笑みながら、鏡の前の椅子に座りました。

女は、チワワから受け取ったボードをチラッと見ると、無言でハサミを手にしました。

ちょっと焦りました。
というのは、以前にもこんな事がありまして、気の小さな私は美容師さんに何も言えないばかりに、勝手にバサバサと髪を切られ、もの凄いオカッパ頭にされた事があるのです。
短すぎてポニーテールに縛る事も出来ず、それはまるで「異様に老けた座敷わらし」のようでございまして、マンションの住人から酷く気味悪がられては大変だったのです。

だから私は「あのぅ・・・」と、その貧乏神のような女に声を掛けました。

女は返事もせず、今まさに髪を切る寸前のポーズのまま、鏡越しにジロッと目を向けました。

「あの、あまり短く切らないように・・・あの、後で縛れるように、ここを長くしてください・・・」

私は毛先をツマミながらそうお願い致しますと、貧乏臭い女は一瞬「ふっ」と鼻で笑った後、「わかりました。でも、長くする事は無理ですけどね・・・」と呟いたのでした。

あえて私は笑ってやりませんでした。
これがもしチワワや美代ちゃんだったなら、これでもかってなくらい卑屈になって「うふふふ」っと笑ってやるのですが、しかし相手は私と同じ獣の匂いのするポン引き野郎です。
彼女と私は同じ土俵なのでございます。
江戸の仇は長崎でという諺もございます。
だから絶対に笑ってやるもんか、と、無情にも私は彼女をカチ無視すると、サッサとポケットの中から単行本を取り出し、知らーん顔して読み始めたのでした。


しかし・・・・


それからしばらくして、やっぱりあの時、クスッとでも笑ってやるべきだった、と、激しく後悔する出来事が起こりました。

それは、読んでいたその単行本が異様におもしろかったからでございます・・・

その単行本は、私が愛する太宰治の「女学生」という小説だったのですが、その作品は過去に30回以上は読んでいるというのに、いつも同じ箇所で噴き出してしまうという地雷型小説(私的に)でございまして、なんと運悪くも丁度その時、その地雷を踏んでしまったのであります。

とたんに「ぷぷぷっ」と笑いが込み上げて来ました。
慌てて本を閉じ、目を綴じます。

目を閉じたまま、笑うな・・・笑うなよ・・・こんなのちっともおもしろくないぞ・・・ぜんぜんおもしろくなんかないんだぞ・・・もしここでいきなり笑ってみろ、後のギャル達が黙っちゃいないぞ・・・おまえはもう二度と人間として生きて行けないほどの恥をかくことになるんだぞ・・・落ちつけ・・・落ち着くんだ・・・と、自分に暗示を掛けます。
そして極めつけに死んだお婆ちゃんの顔なんかを思い出したりしては、鼻でゆっくりと深呼吸をしておりますと、どうにかなんとか、ぷぷぷの神様はお出ましにならずに済んだようで、安心した私は、ゆっくりと深呼吸をしながら、再び目を開いたのでした。

その瞬間です、なんとその貧乏臭い美容師がいきなり「太宰のどこがそんなに可笑しいんですか?」と、真剣な顔をして聞いて来るではございませんか。

復讐です。きっと、あの時私が笑わなかった事への復讐が始まったのです。

すかさず私は再び目を閉じ、聞こえなかったフリをします。
今ここで彼女に、太宰文学にスパイスされた「お笑い」を説明したとしても、きっと彼女は意味がわからず、再びその幸の薄い表情で「それのどこが可笑しいんですか?」と議論を求めて来るに違いないのです。

私はそのまま知らん顔して寝たふりを決め込みました。

すると彼女はそれ以上私を追及する事なく、再びセッセとハサミを動かせ始めました。

とりあえずセーフです。

そうだこのまま寝たふりをしてシカトを決め込もう、そしてカットが終わったらとっとと素早く早急にこの店を飛び出し、もう二度とこの若者の街に踏込むのをヤメよう、私は親父だ、しかも前科だらけの糞バカ変態社会不適合者な非国民なのだ、こんな街にノコノコとやってきたのがそもそものマチガイなのだ、もうよそう、もう二度とあの22才の馬鹿女に「ちょいワル親父」などと乗せられて調子に乗るのはよそう、なんならこのマゲを切り落してやってもイイ、潔くマゲを切って、カッパのような落ち武者カットとなり、私は恥ずかしい人間なのですと人々に見て貰いながら、いつもの新宿に帰ろう・・・

そう自分を戒めながら、私はまるで悟りを開いた僧侶のように清々しい気持ちでゆっくりと目を開きました。

すると、すでにそこには幸の薄い美容師の姿は見当たりません。
幸の薄い美容師は、私の2つ隣りの席のオバさんの髪をセッセと切っているではありませんか。

カットの途中で1人ポツネンと取り残された私。

鏡に映る自分の姿。
てるてる坊主のような真っ白な前掛けを頭からかぶり、ボサボサの髪をだらしなくさせたまま放置されている親父・・・。

その姿はまさしく麻原。
そう、私はこの麻原のような姿のまま、このオシャレなカリスマ美容院でポツンと取り残されては、生き恥を晒していたのでございました・・・

とたんに「ふふふふふ」という笑いが込み上げて来ました。

今ここで、突然大きな声で「我が輩はグルである!」と叫んだら、いったい何人のギャル達が笑ってくれるだろうか。
きっとゲラゲラと笑い出すのはやっぱりアイツだけだろうな・・・と、私は、幸の薄そうな美容師をソッと見ては、また「ふふふふふ」と不気味に笑ったのでございました。


分相応。
つくづくこの言葉が心にしみた、辛い一日でございました。


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