痛い衝動買い
2011/10/22 Sat 22:00
衝動買いというものをよくします。
お店でもネットでもテレビを見てても「うわっ」と思ったら迷わず買ってしまいます。
去年、とある野暮用で地方のド田舎に行った時、ガソリンスタンドに立ち寄りました。
そこは、コンクリート塀の白ペンキがボロボロに剥げたまるで廃墟のようなGSでした。
ヨコハマタイヤの看板が薄気味悪く笑い、ハワイアンの腰巻きのようなカラフルなブラシがボロボロになった洗車機。
その洗車機の中に、全身毛玉だらけの雑種犬が肋骨を剥き出しながら寝ているのを見れば、小川ローザでなくとも「oh ! モーレツ」と叫んでしまいそうでした。
そんなGSに車を滑り込ませますが、しかし、待てど暮らせど店員は現れません。
車から店を覗くと、天井からぶら下がっている箱型テレビが高校野球を騒がしく映し出しております。
だから田舎はイヤなんだ。
そう思いながらクラクションを鳴らそうかどうしようか悩みました。
というのは、コレ系の田舎のGSというのは非常に危険なのです。
下手にプップー!などとクラクションを鳴らそうものなら、いきなり店の奥からオーバーオールを着た髭オヤジが茶色い大型犬と現れ、「誰だ!」と叫びながらショットガンの引き金をガッチャと引きかねないのです。
もしくは、プップー!とクラクションを鳴らした瞬間、整備場に止めてある車の下に潜っていた岩城滉一がいきなりガラガラガラっと寝転んだまま現れ、照りつける太陽を眩しそうしながら「なんだよテメェ」と僕に言うと、そこに突然ドクロのプリントが施された革ジャン集団が「ヒャッホー!」などとインデアン調の奇声をあげながらバイクで現れ、その真ん中で、一人だけサイドカーでふんぞり返るナゼか真っ白なスーツを着た東映の新人が、台車に寝転がったまま煙草を吹かしている岩城滉一に向かって、「マキから手を引いて貰うぜ」っとクールに呟くと、岩城滉一はゆっくりと起き上がりながら「俺はツルむのは嫌いなんだよ」と気怠く呟き、するとその瞬間、東映の悪役古株が似合わない革ジャン姿で「っの野郎!下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」と叫ぶと、背後に従えるこれまた東映の売れない顔ぶれが、手に手にチェーンやジャックナイフなんかをシャキン!と光らせるのです。
こんなド田舎でそんな厄介な問題に巻き込まれちゃ堪ったもんじゃありませんから、僕はクラクションを鳴らすのを諦めると、そのまま大人しく車を降りたのでした。
高校野球が垂れ流しの店内にはPL学園の応援トランペットが空しく響いておりました。
店内には煙草の吸い殻とガソリンの香りが充満し、飲みかけの紙コップのコーヒーがポツンとテーブルの上に置いてありました。
その、飲みかけのコーヒーとページが開いたままのプレイボーイから、店員はすぐにやって来るだろうと推理した僕は、とりあえずボンヤリと売店を眺めておりました。
新発売!と書かれたオイルの横に、妙に古臭いサングラスが並んでいました。
まるで西部警察の大門のようなパンダサングラスばかりです。
やたらと芳香剤ばかりが並んでおりました。
そこに貼られた「オール阪神巨人」のポスターが、日に焼け赤茶け痛々しい。
そんなガラクタ売店の奥に、CDのラックを見つけました。
GSや高速のサービスエリアでは、CDラックをぼんやり眺めるのがなによりのヒマツブシであります。
さっそく僕もヒマツブシを決行したのですが、しかしそこに並ぶCDの古臭いこと古臭いこと。
パッケージが色褪せた天童よしみは、捕獲された小熊のように若いのです。
そんなCDをクスクスと笑いながら眺めておりますと、そのCDラックの横にカラーボックスがポツンと置いてあるのに気付きました。
その中には、なんとカセットテープがズラリと並んでいるではありませんか。
スゲェ・・・っと感動を覚えながら、そのカセットをひとつひとつ抜き取ってはパッケージを眺めます。
そこに並ぶジャンルは、基本的に演歌ばかりでした。
そんな演歌の大御所達の中でひっそりと佇むニューミュージック。
定番の、谷村新司に松山千春に井上陽水。
その中に、「ミュージックボックス」と書かれたカセットを発見した僕は、逸る気持ちを抑えながら、ラックの中からミュージックボックスと書かれたカセットをスポッと抜き取ります。
カセットの裏に書かれた曲のリストを見た僕は素直に驚愕しました。
寺尾聰『ルビーの指環』
田原俊彦『悲しみ2(TOO)ヤング』
山本譲二『みちのくひとり旅』
西田敏行『もしもピアノが弾けたなら』
薬師丸ひろ子『セーラー服と機関銃』
・・・と、八十年代の大ヒット曲が並ぶ中、なんと、なんと、
エマニエル坊や『シティ・コネクション』
と書かれた文字を発見したのです!
僕はもう嬉しさのあまり、その場に泣き崩れたい心境でした。
この、エマニエル坊やの『シティ・コネクション』と、
又吉&なめんなよ『なめんなよ』と、
ウーパールーパーの『ウーパーダンシング』。
この三曲だけは、死ぬ前になんとしても手に入れておきたい三曲だと、常日頃そう思っていた僕でしたので、そのうちの一曲を見つけた時には、金玉がゾクっとするくらいに嬉しかったのです。
トチ狂った僕は、そのカセットを手にしたまま「おーい!」と店員を呼びました。
もう、オーバーオールの散弾銃が出て来ても、寝転び台車で岩城滉一がガラガラガラっと出て来ても怖くありません。
コレを手に入れた今の僕は、まさに鬼に金棒なのです。
すると、奥の休憩室のような小部屋から、青空球児・好児の球児のような顔をしたおっさんが、日清のカップヌードルをズルズルと啜りながら顔を出しました。
「とりあえず、コレをくれ!」
そう言いながらそのカセットをレジに置くと、くたびれた健康サンダルをタラタラと鳴らしながら出て来た球児は「へぇ~珍しいの買ってくねぇ~」と、辺りにカップヌードルのニオイをプンプン撒き散らしながら笑ったのでした。
球児いわく、この村にはまだまだカセットを聴いている老人が多くいるという事でした。
だから未だにこうしてカセットテープを売っているんだと、球児はまるでボランティア活動をしているかのように威張ってました。
そんな球児に別れを告げ、僕はその村を出ました。
一刻も早く、あの低能じみたエマニエル坊やの『リンリン♪電話がリンギン・トゥナイト♪』という歌声が聞きたい。
そう思いながら鄙びた山道を走り抜ける僕なのでした。
さてさて、さっそくマンションに戻ると、クローゼットの奥から埃だらけのカセットデッキを取り出しました。
23才の同居女も、エマニエル坊やなんぞには全く興味がないくせに、なぜか妙にワクワクしております。
「楽しみだね」
僕の隣りでそう笑う23才の同居女に、「おまえエマニエル坊や知ってんのかよ」と聞きますと、23才の同居女は「知ってるよ。夏休みのお昼にいつも見てたもん」と威張ります。
「夏休みのお昼?」と、首を傾げた僕でしたが、しかしそれはすぐに『アーノルド坊やは人気者』だと気付き、「アホ、あれは違うよ、アレはな」と、アーノルド坊やとエマニエル坊やの違いを説明しようと思いましたが、しかし、今更そんなどーでもいいことを彼女に説明した所で彼女の人生が何か大きく変わるわけでもあるまい、と、思い直した僕は、そのまま彼女をソッとしておいてやったのでした。
そんなカセットデッキに、ガチガチとカセットテープを押し込みますると、いよいよ再生ボタンを押しました。
エマニエル坊やの『シティ・コネクション』は、カセットのB面の一番最初の曲です。
シチ面倒な「早送り」などというものをしなくとも、いきなり低能じみたエマニエルの声と再開できるのです。
ジャーン♪っと音楽が流れ出した瞬間、おもわず僕と23才の同居女は顔を見合わせニヤリと笑います。
が、しかし!
・・・大変なことに気付きました。
なんと、埃だらけのカセットデッキのスピーカーから流れたて来たその歌声。
『シティ・コネクション』を唄うその歌声は、僕が待ち望んでいたエマニエル坊やの声でなく、聞いた事も無いような変なおっさんの声だったのです!
もの凄いショックでした。
スピーカーから聞こえて来るおっさんの歌声に、僕は振り上げた拳をどこに下ろしていいものかと半泣き状態です。
しかし、23才の同居女はそんな僕の気持ちも知らず、
「いい声してるねクロンボ坊や」
などとデタラメを言っております。
これを唄っているおっさん。どことなく演歌調のコブシが聞いております。
きっとどこかの三流レコード会社が、売れない演歌歌手にカラオケを歌わせ、それをカセットにして売り出しているのでしょう。
昭和ではよくある話しです。
しかし、そう考えると、これを買ってしまった僕も不幸ですが、しかしこれを唄わされる演歌歌手も不幸です。
演歌の花道に憧れてこの世界に飛び込んでみたものの、全くの鳴かず飛ばずで貧乏生活。苦節十五年、やっとレコーディングの話しが来たかと思いきや、それは異国の少年が唄う意味不明な曲。
そんな曲をレコード会社から無理矢理唄わされ、『リンリン♪電話がリンギン・トゥナイト♪』などと、涙涙にその御自慢のコブシ唸らせているのです。
だから僕は許しました。
きっとこのおっさんも唄いたくて唄ってるわけじゃないんだ・・・と、僕は全てを許すことにしたのです。
そんな僕の隣で、23才の同居女はやたらと濃いカルピスをチューチューと吸いながら、テレビの『しゃべくり007』を見ておりました。
彼女には、もうアーノルド坊やもエマニエル坊やも興味がないようです。
僕はカセットデッキの横に転がるカセットテープの箱をソッと手に取りました。
そこで初めて、このインチキなカセットテープが千八百円もする事に気付きました。
とっても痛い衝動買いでございました。
しかし、僕は思いました。
いつの日かこのカセットテープを『探偵ナイトスクープ』に持ち込み、桂小枝に「この演歌歌手を捜し出してもらいたい」と探偵依頼しようと。
もし、その演歌歌手と出会えたならば、2人してワンワンと号泣しながら『シティ・コネクション』をデュエットし、司会の西田敏行に嘘泣きさせてやろうと企んでいる次第でございます。
(↑これのCDではなく、レコードやカセットに憧れます。が、正直言って別に大して欲しくはありません)
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去年、とある野暮用で地方のド田舎に行った時、ガソリンスタンドに立ち寄りました。
そこは、コンクリート塀の白ペンキがボロボロに剥げたまるで廃墟のようなGSでした。
ヨコハマタイヤの看板が薄気味悪く笑い、ハワイアンの腰巻きのようなカラフルなブラシがボロボロになった洗車機。
その洗車機の中に、全身毛玉だらけの雑種犬が肋骨を剥き出しながら寝ているのを見れば、小川ローザでなくとも「oh ! モーレツ」と叫んでしまいそうでした。
そんなGSに車を滑り込ませますが、しかし、待てど暮らせど店員は現れません。
車から店を覗くと、天井からぶら下がっている箱型テレビが高校野球を騒がしく映し出しております。
だから田舎はイヤなんだ。
そう思いながらクラクションを鳴らそうかどうしようか悩みました。
というのは、コレ系の田舎のGSというのは非常に危険なのです。
下手にプップー!などとクラクションを鳴らそうものなら、いきなり店の奥からオーバーオールを着た髭オヤジが茶色い大型犬と現れ、「誰だ!」と叫びながらショットガンの引き金をガッチャと引きかねないのです。
もしくは、プップー!とクラクションを鳴らした瞬間、整備場に止めてある車の下に潜っていた岩城滉一がいきなりガラガラガラっと寝転んだまま現れ、照りつける太陽を眩しそうしながら「なんだよテメェ」と僕に言うと、そこに突然ドクロのプリントが施された革ジャン集団が「ヒャッホー!」などとインデアン調の奇声をあげながらバイクで現れ、その真ん中で、一人だけサイドカーでふんぞり返るナゼか真っ白なスーツを着た東映の新人が、台車に寝転がったまま煙草を吹かしている岩城滉一に向かって、「マキから手を引いて貰うぜ」っとクールに呟くと、岩城滉一はゆっくりと起き上がりながら「俺はツルむのは嫌いなんだよ」と気怠く呟き、するとその瞬間、東映の悪役古株が似合わない革ジャン姿で「っの野郎!下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」と叫ぶと、背後に従えるこれまた東映の売れない顔ぶれが、手に手にチェーンやジャックナイフなんかをシャキン!と光らせるのです。
こんなド田舎でそんな厄介な問題に巻き込まれちゃ堪ったもんじゃありませんから、僕はクラクションを鳴らすのを諦めると、そのまま大人しく車を降りたのでした。
高校野球が垂れ流しの店内にはPL学園の応援トランペットが空しく響いておりました。
店内には煙草の吸い殻とガソリンの香りが充満し、飲みかけの紙コップのコーヒーがポツンとテーブルの上に置いてありました。
その、飲みかけのコーヒーとページが開いたままのプレイボーイから、店員はすぐにやって来るだろうと推理した僕は、とりあえずボンヤリと売店を眺めておりました。
新発売!と書かれたオイルの横に、妙に古臭いサングラスが並んでいました。
まるで西部警察の大門のようなパンダサングラスばかりです。
やたらと芳香剤ばかりが並んでおりました。
そこに貼られた「オール阪神巨人」のポスターが、日に焼け赤茶け痛々しい。
そんなガラクタ売店の奥に、CDのラックを見つけました。
GSや高速のサービスエリアでは、CDラックをぼんやり眺めるのがなによりのヒマツブシであります。
さっそく僕もヒマツブシを決行したのですが、しかしそこに並ぶCDの古臭いこと古臭いこと。
パッケージが色褪せた天童よしみは、捕獲された小熊のように若いのです。
そんなCDをクスクスと笑いながら眺めておりますと、そのCDラックの横にカラーボックスがポツンと置いてあるのに気付きました。
その中には、なんとカセットテープがズラリと並んでいるではありませんか。
スゲェ・・・っと感動を覚えながら、そのカセットをひとつひとつ抜き取ってはパッケージを眺めます。
そこに並ぶジャンルは、基本的に演歌ばかりでした。
そんな演歌の大御所達の中でひっそりと佇むニューミュージック。
定番の、谷村新司に松山千春に井上陽水。
その中に、「ミュージックボックス」と書かれたカセットを発見した僕は、逸る気持ちを抑えながら、ラックの中からミュージックボックスと書かれたカセットをスポッと抜き取ります。
カセットの裏に書かれた曲のリストを見た僕は素直に驚愕しました。
寺尾聰『ルビーの指環』
田原俊彦『悲しみ2(TOO)ヤング』
山本譲二『みちのくひとり旅』
西田敏行『もしもピアノが弾けたなら』
薬師丸ひろ子『セーラー服と機関銃』
・・・と、八十年代の大ヒット曲が並ぶ中、なんと、なんと、
エマニエル坊や『シティ・コネクション』
と書かれた文字を発見したのです!
僕はもう嬉しさのあまり、その場に泣き崩れたい心境でした。
この、エマニエル坊やの『シティ・コネクション』と、
又吉&なめんなよ『なめんなよ』と、
ウーパールーパーの『ウーパーダンシング』。
この三曲だけは、死ぬ前になんとしても手に入れておきたい三曲だと、常日頃そう思っていた僕でしたので、そのうちの一曲を見つけた時には、金玉がゾクっとするくらいに嬉しかったのです。
トチ狂った僕は、そのカセットを手にしたまま「おーい!」と店員を呼びました。
もう、オーバーオールの散弾銃が出て来ても、寝転び台車で岩城滉一がガラガラガラっと出て来ても怖くありません。
コレを手に入れた今の僕は、まさに鬼に金棒なのです。
すると、奥の休憩室のような小部屋から、青空球児・好児の球児のような顔をしたおっさんが、日清のカップヌードルをズルズルと啜りながら顔を出しました。
「とりあえず、コレをくれ!」
そう言いながらそのカセットをレジに置くと、くたびれた健康サンダルをタラタラと鳴らしながら出て来た球児は「へぇ~珍しいの買ってくねぇ~」と、辺りにカップヌードルのニオイをプンプン撒き散らしながら笑ったのでした。
球児いわく、この村にはまだまだカセットを聴いている老人が多くいるという事でした。
だから未だにこうしてカセットテープを売っているんだと、球児はまるでボランティア活動をしているかのように威張ってました。
そんな球児に別れを告げ、僕はその村を出ました。
一刻も早く、あの低能じみたエマニエル坊やの『リンリン♪電話がリンギン・トゥナイト♪』という歌声が聞きたい。
そう思いながら鄙びた山道を走り抜ける僕なのでした。
さてさて、さっそくマンションに戻ると、クローゼットの奥から埃だらけのカセットデッキを取り出しました。
23才の同居女も、エマニエル坊やなんぞには全く興味がないくせに、なぜか妙にワクワクしております。
「楽しみだね」
僕の隣りでそう笑う23才の同居女に、「おまえエマニエル坊や知ってんのかよ」と聞きますと、23才の同居女は「知ってるよ。夏休みのお昼にいつも見てたもん」と威張ります。
「夏休みのお昼?」と、首を傾げた僕でしたが、しかしそれはすぐに『アーノルド坊やは人気者』だと気付き、「アホ、あれは違うよ、アレはな」と、アーノルド坊やとエマニエル坊やの違いを説明しようと思いましたが、しかし、今更そんなどーでもいいことを彼女に説明した所で彼女の人生が何か大きく変わるわけでもあるまい、と、思い直した僕は、そのまま彼女をソッとしておいてやったのでした。
そんなカセットデッキに、ガチガチとカセットテープを押し込みますると、いよいよ再生ボタンを押しました。
エマニエル坊やの『シティ・コネクション』は、カセットのB面の一番最初の曲です。
シチ面倒な「早送り」などというものをしなくとも、いきなり低能じみたエマニエルの声と再開できるのです。
ジャーン♪っと音楽が流れ出した瞬間、おもわず僕と23才の同居女は顔を見合わせニヤリと笑います。
が、しかし!
・・・大変なことに気付きました。
なんと、埃だらけのカセットデッキのスピーカーから流れたて来たその歌声。
『シティ・コネクション』を唄うその歌声は、僕が待ち望んでいたエマニエル坊やの声でなく、聞いた事も無いような変なおっさんの声だったのです!
もの凄いショックでした。
スピーカーから聞こえて来るおっさんの歌声に、僕は振り上げた拳をどこに下ろしていいものかと半泣き状態です。
しかし、23才の同居女はそんな僕の気持ちも知らず、
「いい声してるねクロンボ坊や」
などとデタラメを言っております。
これを唄っているおっさん。どことなく演歌調のコブシが聞いております。
きっとどこかの三流レコード会社が、売れない演歌歌手にカラオケを歌わせ、それをカセットにして売り出しているのでしょう。
昭和ではよくある話しです。
しかし、そう考えると、これを買ってしまった僕も不幸ですが、しかしこれを唄わされる演歌歌手も不幸です。
演歌の花道に憧れてこの世界に飛び込んでみたものの、全くの鳴かず飛ばずで貧乏生活。苦節十五年、やっとレコーディングの話しが来たかと思いきや、それは異国の少年が唄う意味不明な曲。
そんな曲をレコード会社から無理矢理唄わされ、『リンリン♪電話がリンギン・トゥナイト♪』などと、涙涙にその御自慢のコブシ唸らせているのです。
だから僕は許しました。
きっとこのおっさんも唄いたくて唄ってるわけじゃないんだ・・・と、僕は全てを許すことにしたのです。
そんな僕の隣で、23才の同居女はやたらと濃いカルピスをチューチューと吸いながら、テレビの『しゃべくり007』を見ておりました。
彼女には、もうアーノルド坊やもエマニエル坊やも興味がないようです。
僕はカセットデッキの横に転がるカセットテープの箱をソッと手に取りました。
そこで初めて、このインチキなカセットテープが千八百円もする事に気付きました。
とっても痛い衝動買いでございました。
しかし、僕は思いました。
いつの日かこのカセットテープを『探偵ナイトスクープ』に持ち込み、桂小枝に「この演歌歌手を捜し出してもらいたい」と探偵依頼しようと。
もし、その演歌歌手と出会えたならば、2人してワンワンと号泣しながら『シティ・コネクション』をデュエットし、司会の西田敏行に嘘泣きさせてやろうと企んでいる次第でございます。
(↑これのCDではなく、レコードやカセットに憧れます。が、正直言って別に大して欲しくはありません)
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