変な顔する新宿の女
2011/01/08 Sat 11:48
あれは、お昼を少し過ぎた頃でした。
最初、タイムズスクエアの前の路上でその御夫人を見かけた時、僕はその御婦人が小さな子供に「いない、いない、バー」とやっているのかと思いました。
しかし、その御婦人の前には誰もいません。
年の頃は40を過ぎているでしょうか、妙にお腹がポッコリと出た短足な御婦人は、タイムズスクエアの前に立ち止まったまま、誰もいないタイムズスクエアの壁に向かって「変な顔」を繰り返しています。
僕は素通りしながらも、瞬間、僕の妖怪アンテナがピピッと反応し、「あっ、キてるな・・・」と思いました。
キチガイニストの僕は、こんな人が大好きです。
僕は、こんな人を新宿で見かけると、どんな大切な仕事でもどんな綺麗な女との約束でも平気でスッポかして、思う存分キチガイ観察に耽ります。
僕はポケットの中からサッと携帯を取り出し、いかにも携帯を見ているようなフリをして御婦人に近付きました。
「あがぁ~」
御婦人は唇をへの字に曲げてはポッカリと口を開き、ちょうちんアンコウのような顔をして唸ります。
御婦人の真正面は壁です。壁ですが、しかし通行人にはそのアンコウ顔は丸見えです。
しかし新宿。
嗚呼新宿。
この街の人々というのは、こんな光景に馴れているのかそれとも興味がないのか、そんな素敵な御婦人に対し、まったく知らんぷりで通り過ぎるのです。
待ておまえら!よく見ろよ!
ハリーポッターよりも全然おもしろいから!
僕は心の中でそう叫びながら、知らんぷりして通り過ぎる通行人達をキョロキョロしますが、しかし、そんな僕の魂の叫びがこんな冷血動物のようなヤツラに伝わるわけがございません。
ですから僕はそんな通行人達を無視し、1人で楽しむ事にしました。
さて、そんな御婦人は、僕に観察されているとも知らず、「あわわわわわっ」などと呻きながら顔をだらしなくタレ下げております。
そのうち、それ以上の変顔ができないと思ったのでしょうか、なんと御婦人は、両手をバンザイさせ、ガニ股になってはアンコウ顔して「あばばばば・・・」っとやり始めたのです。
「ぶはっ!」
遂に僕は噴き出してしまいました。
すると御婦人は、クルッと僕に振り向き、「キッ!」と睨みます。
その時の御婦人の素顔を見た僕はおもわず「あっ!」と叫びました。
なんとその御婦人は、若き頃の白木ミノル氏に瓜二つではありませんか!
(ミノルだ!)
僕は、遂に本物の妖怪を発見した水木しげるの如く大興奮しました。
ここでこんな大物を逃がしてしまっては大失態です。
そうなれば一生悔んでも悔んでも悔み切れなくなります。
僕はミノルにジッと見つめられながら、あたかも携帯を見て笑っている男のフリをして、携帯を見つめたまま再び「あはっ」などと嘘笑いをして偽装工作いたしました。
その甲斐あってか、ミノルはそんな僕から不審感を解き、そのままペタペタとサンダルを鳴らしながら四丁目の交差点に向かって歩き始めたのでした。
僕はその日、ある仕事の打ち合わせで友人と待ち合わせをしていたのですが、そんなものもうどーでも良くなりました。
僕はこっそりとミノルを尾行し、待ち合わせの相手に電話をします。
横断歩道の前に足を止めたミノルの斜めにソッと立ち、「もしもし・・」と携帯に話し掛けながらミノルの顔をソッと見ました。
「ぶひゃ!」
僕はいきなり電話口に噴き出しました。
なんとミノルは!横断歩道の前に立ちながらも、タコのように唇を突き出し、そして両目をおもいき寄り目にさせながら首を左右に小刻みに揺らしているのです!
突然噴き出した僕に、電話口の友人は「えっ?」と驚きます。
僕はもう笑いが止まらなくなり、前屈みになりながらヒーヒーと笑います。
その間、電話口の友人は「どうしたの?」とうるさいので、そのままピッと電話を切ってやりました。
そんなミノルは、信号が青になるとそのままの顔で横断歩道を渡り始めました。
前からやって来る通行人達は、そんなミノルに「ギョッ!」と驚き、あきらかにおかしいと思われるそんなミノルに慌てて道を開けます。
そしてそんなミノルの後には、ゲラゲラと笑いながら前屈みで付いて来る僕がいます。
ミノルに「ギョッ!」とした良識ある通行人達は、そんな僕を見て更に「ギョッ!」とし、不審な表情を浮かべながらソソクさと僕を避けます。
とたんに僕の頭の中にデーン!と大きなタイトルが浮かび上がりました。
新宿てなもんや三度笠!
さて、そんなミノルはそのまま明治通を真っすぐ進み伊勢丹に向かって歩いています。
僕はミノルの後をこっそりと尾行しながら、彼女がまだあのタコ顔をしているのか気になって仕方ありません。
しかし、前から歩いて来る通行人達の顔を見ますと、ミノルが変顔をしている様子はなさそうです。
ミノルとすれ違う通行人達は、ミノルを避ける事もなく平然としているのです。
僕は一瞬、考えました。
ミノルが変顔をしていたのは、あのタイムズスクエアから四丁目の交差点までだった・・・・
しかし、なぜミノルはその区間だけ変顔をしたのだろう?
もしや、あの区間にはヤツにしか見えない、なにか唯ならぬ妖気が漂っていたのだろうか・・・
その妖気を感じたミノルは魔除けの為にあのような変顔をしていたのかも知れない・・・
こいつはもしかしたら陰陽師なのかも知れぬぞ!
僕はそんなデタラメを想像しながら、再び携帯を耳に当てて、足早にミノルを追い抜きました。
しばらく「もしもしぃ!」などと嘘電話をしながら歩き、そして、何気に足を止めてはミノルが歩いて来る方向にゆっくりと振り向きました。
「ぶはっ!」
噴き出した僕は、立っていられなくなりその場にガクンと膝を落としました。
なんとミノルは、口を獅子のような大きく開き、目を異常にタレ下げながら凄い泣き顔をして歩いていたのです!
そうです、その顔はまさしく「こなきジジイ」なのです!
僕は歩道のコンクリートに膝を立てながら狂ったように笑い、そしてすれ違うミノルに気付かれぬよう再び携帯を耳に当て、近付いて来るミノルをチラチラと見ながら死ぬほど笑いました。
どうしてキミはそんな顔をするんだ!
そんな顔をしながら歩く事に何か意味はあるのか!
僕は心でそう叫びながら、近付いて来たミノルの顔をまともに見てはチロッと小便を洩らしたのでした。
さて、そんな解読不明なミノルは、あらゆる変顔を御披露しながらそのまま明治通を延々と突き進んで行きます。
ミノルは、突然ニワトリのマネをしたり、いきなり奇声をあげながらケンケンパッ!と飛び跳ねたり、または「降りて来い!降りて来いよー!」と空に向かって叫んだりと、これぞまさしく分裂病の特級症状だ!と言わんばかりの奇怪な言動で僕を楽しませてくれました。
しかし、いよいよそんなミノルともお別れです。
いくら物好きな僕でもさすがにこれ以上ミノルに時間を費やす事はできないのです。
そう思った僕は浅間神社の三叉路でゆっくりと足を止めました。
大久保方面へと消えて行くミノルの小さな後ろ姿を見つめながら、僕は小さな声で「ミノル。また遊ぼうな」と呟き、静かに背を向けました。
(↓ここからはこの曲をBGMにして下さい)
再びタイムズスクエアへ向かった僕は、歩道ですれ違う人々の顔をぼんやりと眺めていました。
しかし、どの顔もみんな能面のように表情がなく、どこかひんやりとした表情の人ばかりです。
僕はふと、このすれ違う人達にミノルのような変顔をしてみたいという衝動に駆られました。
そんな僕は少し性的興奮すら感じております。
見知らぬ人々に自分が最も恥ずかしいと思っている変顔を見せつけるという行為に密かに欲情していたのです。
やってみたい・・・・
僕の変顔を見たこの人達がどんなリアクションをするのか見てみたい・・・
激しくそう思いますが、しかし、そこでいきなりニワトリの真似をしてみろと言われてすぐにできるようなものではありません。
そんな僕は、大勢の人々が行き交うタイムズスクエアの前でもう一度立ち止まりました。
人間交差点新宿・・・
どうしてミノルはこの灰色の町をあんな顔をしながら歩くのだろう・・・・
あんな顔をしながら歩くミノルの人生にいったい何があったというんだ・・・・・
愛と死と憎悪が渦巻くメカニカルタウン新宿・・・・
変な顔をしたミノルがうろつくメカニカルタウン新宿・・・・
そんなミノルは、きっと見て欲しかったのではないだろうか?
私を見て!もっともっと私を見て!と、そうミノルは、このメカニカルタウン新宿を行き交う人々に自分の存在を叫んでいたのではないだろうか・・・
ミノル・・・・
僕はソッと人間交差点に振り返りながら小さな声でミノルの名を呼びました。
そして交差点を行き交うロボットのような顔をした人間達を見つめながらポツリと呟きました。
あんなミノルに誰がした・・・・
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最初、タイムズスクエアの前の路上でその御夫人を見かけた時、僕はその御婦人が小さな子供に「いない、いない、バー」とやっているのかと思いました。
しかし、その御婦人の前には誰もいません。
年の頃は40を過ぎているでしょうか、妙にお腹がポッコリと出た短足な御婦人は、タイムズスクエアの前に立ち止まったまま、誰もいないタイムズスクエアの壁に向かって「変な顔」を繰り返しています。
僕は素通りしながらも、瞬間、僕の妖怪アンテナがピピッと反応し、「あっ、キてるな・・・」と思いました。
キチガイニストの僕は、こんな人が大好きです。
僕は、こんな人を新宿で見かけると、どんな大切な仕事でもどんな綺麗な女との約束でも平気でスッポかして、思う存分キチガイ観察に耽ります。
僕はポケットの中からサッと携帯を取り出し、いかにも携帯を見ているようなフリをして御婦人に近付きました。
「あがぁ~」
御婦人は唇をへの字に曲げてはポッカリと口を開き、ちょうちんアンコウのような顔をして唸ります。
御婦人の真正面は壁です。壁ですが、しかし通行人にはそのアンコウ顔は丸見えです。
しかし新宿。
嗚呼新宿。
この街の人々というのは、こんな光景に馴れているのかそれとも興味がないのか、そんな素敵な御婦人に対し、まったく知らんぷりで通り過ぎるのです。
待ておまえら!よく見ろよ!
ハリーポッターよりも全然おもしろいから!
僕は心の中でそう叫びながら、知らんぷりして通り過ぎる通行人達をキョロキョロしますが、しかし、そんな僕の魂の叫びがこんな冷血動物のようなヤツラに伝わるわけがございません。
ですから僕はそんな通行人達を無視し、1人で楽しむ事にしました。
さて、そんな御婦人は、僕に観察されているとも知らず、「あわわわわわっ」などと呻きながら顔をだらしなくタレ下げております。
そのうち、それ以上の変顔ができないと思ったのでしょうか、なんと御婦人は、両手をバンザイさせ、ガニ股になってはアンコウ顔して「あばばばば・・・」っとやり始めたのです。
「ぶはっ!」
遂に僕は噴き出してしまいました。
すると御婦人は、クルッと僕に振り向き、「キッ!」と睨みます。
その時の御婦人の素顔を見た僕はおもわず「あっ!」と叫びました。
なんとその御婦人は、若き頃の白木ミノル氏に瓜二つではありませんか!
(ミノルだ!)
僕は、遂に本物の妖怪を発見した水木しげるの如く大興奮しました。
ここでこんな大物を逃がしてしまっては大失態です。
そうなれば一生悔んでも悔んでも悔み切れなくなります。
僕はミノルにジッと見つめられながら、あたかも携帯を見て笑っている男のフリをして、携帯を見つめたまま再び「あはっ」などと嘘笑いをして偽装工作いたしました。
その甲斐あってか、ミノルはそんな僕から不審感を解き、そのままペタペタとサンダルを鳴らしながら四丁目の交差点に向かって歩き始めたのでした。
僕はその日、ある仕事の打ち合わせで友人と待ち合わせをしていたのですが、そんなものもうどーでも良くなりました。
僕はこっそりとミノルを尾行し、待ち合わせの相手に電話をします。
横断歩道の前に足を止めたミノルの斜めにソッと立ち、「もしもし・・」と携帯に話し掛けながらミノルの顔をソッと見ました。
「ぶひゃ!」
僕はいきなり電話口に噴き出しました。
なんとミノルは!横断歩道の前に立ちながらも、タコのように唇を突き出し、そして両目をおもいき寄り目にさせながら首を左右に小刻みに揺らしているのです!
突然噴き出した僕に、電話口の友人は「えっ?」と驚きます。
僕はもう笑いが止まらなくなり、前屈みになりながらヒーヒーと笑います。
その間、電話口の友人は「どうしたの?」とうるさいので、そのままピッと電話を切ってやりました。
そんなミノルは、信号が青になるとそのままの顔で横断歩道を渡り始めました。
前からやって来る通行人達は、そんなミノルに「ギョッ!」と驚き、あきらかにおかしいと思われるそんなミノルに慌てて道を開けます。
そしてそんなミノルの後には、ゲラゲラと笑いながら前屈みで付いて来る僕がいます。
ミノルに「ギョッ!」とした良識ある通行人達は、そんな僕を見て更に「ギョッ!」とし、不審な表情を浮かべながらソソクさと僕を避けます。
とたんに僕の頭の中にデーン!と大きなタイトルが浮かび上がりました。
新宿てなもんや三度笠!
さて、そんなミノルはそのまま明治通を真っすぐ進み伊勢丹に向かって歩いています。
僕はミノルの後をこっそりと尾行しながら、彼女がまだあのタコ顔をしているのか気になって仕方ありません。
しかし、前から歩いて来る通行人達の顔を見ますと、ミノルが変顔をしている様子はなさそうです。
ミノルとすれ違う通行人達は、ミノルを避ける事もなく平然としているのです。
僕は一瞬、考えました。
ミノルが変顔をしていたのは、あのタイムズスクエアから四丁目の交差点までだった・・・・
しかし、なぜミノルはその区間だけ変顔をしたのだろう?
もしや、あの区間にはヤツにしか見えない、なにか唯ならぬ妖気が漂っていたのだろうか・・・
その妖気を感じたミノルは魔除けの為にあのような変顔をしていたのかも知れない・・・
こいつはもしかしたら陰陽師なのかも知れぬぞ!
僕はそんなデタラメを想像しながら、再び携帯を耳に当てて、足早にミノルを追い抜きました。
しばらく「もしもしぃ!」などと嘘電話をしながら歩き、そして、何気に足を止めてはミノルが歩いて来る方向にゆっくりと振り向きました。
「ぶはっ!」
噴き出した僕は、立っていられなくなりその場にガクンと膝を落としました。
なんとミノルは、口を獅子のような大きく開き、目を異常にタレ下げながら凄い泣き顔をして歩いていたのです!
そうです、その顔はまさしく「こなきジジイ」なのです!
僕は歩道のコンクリートに膝を立てながら狂ったように笑い、そしてすれ違うミノルに気付かれぬよう再び携帯を耳に当て、近付いて来るミノルをチラチラと見ながら死ぬほど笑いました。
どうしてキミはそんな顔をするんだ!
そんな顔をしながら歩く事に何か意味はあるのか!
僕は心でそう叫びながら、近付いて来たミノルの顔をまともに見てはチロッと小便を洩らしたのでした。
さて、そんな解読不明なミノルは、あらゆる変顔を御披露しながらそのまま明治通を延々と突き進んで行きます。
ミノルは、突然ニワトリのマネをしたり、いきなり奇声をあげながらケンケンパッ!と飛び跳ねたり、または「降りて来い!降りて来いよー!」と空に向かって叫んだりと、これぞまさしく分裂病の特級症状だ!と言わんばかりの奇怪な言動で僕を楽しませてくれました。
しかし、いよいよそんなミノルともお別れです。
いくら物好きな僕でもさすがにこれ以上ミノルに時間を費やす事はできないのです。
そう思った僕は浅間神社の三叉路でゆっくりと足を止めました。
大久保方面へと消えて行くミノルの小さな後ろ姿を見つめながら、僕は小さな声で「ミノル。また遊ぼうな」と呟き、静かに背を向けました。
(↓ここからはこの曲をBGMにして下さい)
再びタイムズスクエアへ向かった僕は、歩道ですれ違う人々の顔をぼんやりと眺めていました。
しかし、どの顔もみんな能面のように表情がなく、どこかひんやりとした表情の人ばかりです。
僕はふと、このすれ違う人達にミノルのような変顔をしてみたいという衝動に駆られました。
そんな僕は少し性的興奮すら感じております。
見知らぬ人々に自分が最も恥ずかしいと思っている変顔を見せつけるという行為に密かに欲情していたのです。
やってみたい・・・・
僕の変顔を見たこの人達がどんなリアクションをするのか見てみたい・・・
激しくそう思いますが、しかし、そこでいきなりニワトリの真似をしてみろと言われてすぐにできるようなものではありません。
そんな僕は、大勢の人々が行き交うタイムズスクエアの前でもう一度立ち止まりました。
人間交差点新宿・・・
どうしてミノルはこの灰色の町をあんな顔をしながら歩くのだろう・・・・
あんな顔をしながら歩くミノルの人生にいったい何があったというんだ・・・・・
愛と死と憎悪が渦巻くメカニカルタウン新宿・・・・
変な顔をしたミノルがうろつくメカニカルタウン新宿・・・・
そんなミノルは、きっと見て欲しかったのではないだろうか?
私を見て!もっともっと私を見て!と、そうミノルは、このメカニカルタウン新宿を行き交う人々に自分の存在を叫んでいたのではないだろうか・・・
ミノル・・・・
僕はソッと人間交差点に振り返りながら小さな声でミノルの名を呼びました。
そして交差点を行き交うロボットのような顔をした人間達を見つめながらポツリと呟きました。
あんなミノルに誰がした・・・・
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