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ブタ箱の風呂

2011/01/22 Sat 11:18

    ブタ箱




ブタ箱。
警察署にある留置場(代用監獄ともいう)。
逮捕されると、48時間、若しくは12日間、はたまた22日間、事件を否認してたり余罪があったりすると延々と監禁されます。
ブタ箱は、拘置所や刑務所と違って、あらゆる面で劣悪です。
拘置所や刑務所には、それなりのプロ、つまり刑務官というプロフェッショナルな飼育係がいますから、僕達も安心して快適なプリズンライフを送れるのですが、しかしブタ箱。嗚呼ブタ箱。

ここはまさにブタ箱と呼ぶに相応しいサノバビッチなのです。

拘置所や刑務所が法務省の縄張りなら、ブタ箱というのは警察の縄張りでございます。
ですからブタ箱というのは、警察がパクって来たお客様(被疑者)を一時的に泊めておく簡易ホテルなのです。

このホテル。脳味噌が茹で上がる程サービスが悪いです。
いや、人によってはブタ箱の方が良いと言う人もいます。
ブタ箱だとタバコが吸えるし寝っ転がれるし、それに、規則なんかも拘置所や刑務所に比べると全然緩いですからね。

でも、僕はダメです。
そう、僕みたいに神経質な男には、あのブタ箱はまさに地獄なのです。


ブタ箱というのは、その警察署によって内装や規則が違います。
最新型のキレイなブタ箱もあれば、まさに映画『告発』に出て来そうな穴蔵的なブタ箱もございます。
僕は過去に、最新型も穴蔵型も経験した事がございますが、しかし、そのどちらも、やっぱり風呂は最悪でした。

そんな中でも最も凄まじかったのが◎◎警察署のブタ箱の風呂です。

まず、浴室の広さですが、普通の一般家庭の風呂よりも、洗い場がほんの少し広い程度のものでした。
ブタ箱の入浴は基本的に1人です。
刑務所のように、裸の罪人達がゾロゾロと湯に入るといった感じではなく、1人こっそりと湯につかるっといったケナゲな感じです。

まぁ、刑務所のように、ホモのヤクザ者から尻をジロジロ見られたり、ワキガのコソ泥やクラミジアのシャブ中なんかと一緒にジャブジャブしなくていい分、ブタ箱の1人入浴というのはいいのですが、しかし、それが逆にとんでもない悲劇を生むのでございます・・・

毎週2回のブタ箱の入浴は、朝から始まります。
当時、◎◎警察署のブタ箱には約20人の罪人達が蒸されておりました。
20人もいるのに浴室はたった1つ!
与えられた時間は1人20分。
1人ずつ順番に入るわけですから、これはなかなか時間の掛かる大仕事なのです。

さて、ここで問題なのが風呂の順番です。
ブタ箱の入浴順番は、基本的に古株から1番風呂というのがおキマリです。
ですから、誰もが「最後風呂」という地獄の試練を受けなければならないのです。

僕はとっても神経質です。
外国人と握手できないくらいの神経質で、どれだけ綺麗な人であっても息の臭い女性とは絶対にヤれない究極の神経質なのです。
ましてや潔癖性です。
精神は汚れてますが、性格はいたって清い潔癖性なのです。
ある時、駅の灰皿に捨ててあった、誰かの使用済み綿棒を不意に目撃し、その綿棒の先のあまりの黄色さに失望した僕は、おもわず電車が通過する線路の中に飛び込んでしまいたいと本気で思った程の生粋な潔癖性なのです。

そんな神経質で潔癖性の僕が、浮浪者や、水虫親父や、チンカスだらけのコソ泥や、カツラの詐欺師や、寝小便常習犯のシャブ中や、痔のオカマといった、魑魅魍魎なモノノケ達のカルマでドロドロに濁った湯に入らなければならないのです!

絶対無理だ!と思っていても、しかし、当時は冬です。
入浴を拒否する事はできますが、しかし、冬のブタ箱というのは、真冬の小樽くらい、温けぇ風呂が恋しいものなのです。
そんな冬のブタ箱の風呂の魅力には、さすがの僕でも敵いませんでした・・・。


さて、ブタ箱では、基本的に次の入浴者はパンツ一丁で順番を待たなければなりません。
これは、脱衣の時間を早めようとする官の陰謀ではありますが、しかし、極寒の中、パンツ一丁で風呂の順番を待つと言うのも、これまたなかなかオツなモノです。

待っている間、「あぁ、早く温けぇ湯に入りてぇなぁ・・・」という、日本昔話しの市原悦子の声が頭の中で静かに谺します。

そうしながら、鉄格子の中で、忍び難きを忍び、耐え難きを耐えておりますと、廊下の向こうからカツコツカツという牢番の足音が近付いて来て、「はい、入浴!」と、重圧な鉄格子の扉が開かれるのです。

いよいよ入浴です。
僕は鳥肌の立つ肌をガシガシと擦りながら急いで浴室へと駆け寄り、脱衣場の扉を開けます。
とたんに「ムアッ!」っという、牛小屋のような生温かい悪臭が僕の鼻を襲いました。
そんな匂いに圧倒されていますと、若い牢番が「じゃあ20分ね」と言いながら、ストップウォッチのスイッチをカチッ!と押します。
すかさず、僕の頭の中で、カチカチカチカチ・・・っというストップウォッチの音が響き、僕は著しく急かされます。
牢番は、慌ててパンツを脱いでいる僕に向かって、「あなたが最後だから、湯、抜いててね」と、まるで古女房のように囁いたのでした。


いよいよ浴室の扉を開けますと、そこは牛小屋の香りを通り越し、もはや牛糞の香りが漂っていました。
20人の罪人達のダシの効いた濃厚スープ。
僕は、そんな濃厚スープが湯気を上げるバスタブの中を、ゴォー・・・と響くガス給湯器の音に包まれながら、恐る恐る覗き込みました。

それはまさしくコーヒーでした。
猛烈な悪臭を漂わすバスタブの中には、コーヒー色した濃厚な湯が、まるでペルシャ湾に流失した重油のように、ポチャン・・・ポチャン・・・と波を打ってます。

そしてなによりも凄いのがクリープです。
そうです、湯がコーヒーならば、その湯にびっしりと浮いている真っ白な垢は、まさにクリープなのです!
そんな極悪な湯には、プカプカと浮いているクリープの他に、まるで異常発生したアメンボウの大軍のような大量の陰毛が泳いでおりました。

こんな湯に入るくらいなら、素直に罪を認めて極刑を喰らったほうがマシだ!

気位の高い僕は、まるで夕飯のおかずが気に入らないと怒り狂って絶食するラスト・エンペラーの如く、潔くその湯を諦めました。
今日の所はシャワーだけで我慢するとしよう・・・・とシャワーを探しますが、しかしそこにシャワーと言うハイカラな物は見当たりません。
チッ!と舌打ちしながらシャワーを諦め、バスタブの横に備え付けられている蛇口を捻ります。
とにかく、サッサと身体を洗ってこの忌々しい地獄から抜け出したい、という魂胆だったのです。
急いで蛇口を捻ると、ドボドボドボ・・・・っと水が出て来ました。
そんな僕を、扉に設置された「視察口」という小窓からジッと見ている若いおまわりさん。
僕は、そんなノゾキ野郎の目を気にしながら、ドボドボと溢れ出る水に手をかざしますが、しかし・・・待てど暮らせど、その水は湯に変わってくれません・・・・

キレかけの僕は、扉をガシン!と蹴飛ばしながら、ノゾキ野郎を「おい!」と呼びました。
すぐに、「なぁに?」と若いおまわりが眼鏡を曇らせながら小窓を開けました。
「ちっとも湯が出ねぇぞ」
僕がそう言うと、曇り眼鏡のおまわりは「うん。それは水しか出ないよ」と、フツーに答えたのです・・・

それはまさに死刑宣告に近い、残酷な告知でした。
既に、水道の蛇口から飛び散る水が、僕の身体をビシャビシャに濡らしています。
身も心も凍るように冷たい。このままでは凍傷の恐れもあるのです(大袈裟)。

僕は、決心しました。
なんとしても生き延びるんだ。生き伸びてここから脱出し、もう一度シャバのファンタグレープを飲むんだ(パクられると妙にファンタグレープが恋しくなるのです)。

そう自分を励ましながら、僕はこの罪人達の血と汗と垢が蠢くドロドロの湯の中に足を踏み入れたのでした・・・・


その沼に爪先を入れると、ドボっ・・・という重い音が聞こえました。
本来、サラサラな清潔な湯であれば、ポチャっという効果音が適しているのですが、しかしその沼の湯は濃厚過ぎて「ドボっ・・・」という音が適切なのです。

僕はそんな沼の湯に立ちすくんだまま、もう一度、湯を見下ろします。
先程、コーヒーに見えたその湯は、間近で見るとみそ汁のようでした。
陰毛がワカメで白い垢が豆腐。

自業自得・・・・
そんな泥湯を見つめていると、ふいにそんな言葉が頭を過りました。
真っ当に暮らしてさえいれば、こんな泥湯に入らなくても良かったのに・・・・
僕はそう反省しながらも、寒さでブルブルと震える身体を、その濃厚な泥湯にゆっくりと沈めたのでした。

浴槽の床は、4年間放置されたままのミドリガメの水槽のようにヌルヌルしておりました。
それは、同じヌルヌルでも、ソープランドのローションのような嬉しいヌルヌルではなく、排水口的なイヤぁ~なヌルヌルです。

そんなヌルヌル感を尻に感じながら、泥湯に肩まで浸かりますと、ひとまずは湯の温かみで震える身体は沈静化していきました。

しかし、そこに漂っているニオイは凄まじいものでした。
まさしく水族館のニオイです。
そんな悪臭湯にびっしりと張り巡らされた真っ白な垢は、みそ汁の大海に浮かぶ流氷のようでした。

殺人、強盗、詐欺、泥棒・・・・
あらゆる罪を犯した罪人達のカルマがプカプカと浮いてます。
僕は、そんな魑魅魍魎とした罪人達から滲み出た白いカルマを見つめながら「兵達が夢の後・・・」と詩人のように呟きます。

すると、ふと足の爪先に何かがコロコロっと触れました。
よせばいいのに、僕はそのコロコロとした物体をおもわず湯の中から掬ってしまいました。
それは赤いサイコロのような形をしております。
なんだこれ・・・・
指で摘みますと、それはいとも簡単にムニュッと潰れました。
僕は、その潰れた物体を見て、そこで初めてそれがなんであるかを知りました。
それはなんと、人参
そう、それはまさしく、ラブホの冷凍ピラフなんかによく入ってる、

ミックスベジタブルの人参

だったのです!
goodsimage79093.jpg
僕は、手の平の上でネチャッと潰れるミックスベジタブルの人参を見つめながら「なぜだ!」と叫びました。
・・・誰かの肛門から、消化されていないミックスベジタブルがポコッ・・・と出て来たのか?
・・・はたまた、誰かがこの浴室にピラフを不正持ち込みし、看守に隠れてムシャムシャと不正飲食をしたのだろうか?
いや、違う、あいつだ!きっとあいつの仕業だ!
僕はあいつを想像し、速やかに湯の中の肛門をキュッ!と締めました。

あいつ・・・
あいつは、僕が逮捕される数時間前、この●●警察署のブタ箱にぶち込まれた浮浪者でした。
いや、あいつがぶち込まれたのは、正確にはブタ箱ではなくトラ箱です。
トラ箱とは、泥酔者をぶち込む保護房の事で、主に、どーしょーもない酔っぱらいが閉じ込められている箱でございます。

深夜に逮捕された僕は、夜の取調室で、どーしょーもなく下手糞な東京音頭を喚き散らしながら連行されて行くあいつの歌声を、刑事と2人してゲラゲラと笑いながら聞いていたのです。

これは、僕の前に入浴した、あいつのゲロの欠片だ・・・

あいつは、確かに昨夜、トラ箱の中で大量のゲロを吐き散らし、看守に「汚ねぇなぁ、もう!」と怒鳴られていました!ですからこのミックスベジタブルの人参は、ヤツが昨夜、トラ箱で吐瀉したブツに違いありません!そうです!きっとそれが何らかの理由でこの湯の中にまで運ばれて来たのですよ池畑警部!

うわああああああああ!

身の毛がよだった僕は、すかさずバスタブから飛び出しました。
ホームレスの垢やインキンや大腸菌ならまだしも、吐瀉物(しかも原型)入りの風呂だけはさすがに耐えられません。

すると、僕がバスタブから飛び出した瞬間、小窓から覗いていた小役人が「あと5分ね」と涼しい顔して告知しました。

あと5分。
まだ身体も髪も洗ってません。
いや、洗うどころか反対に汚してます。
しかも身体は骨の髄まで冷えきり、奥歯がガチガチと震え始めては歯の根が合いません。

これはマズいぞ!
と、慌てた僕は、とにかく身体中に牛のマークの牛乳石鹸を擦り付けました。
カチカチカチカチ・・・・っと小役人のストップウォッチが小窓から聞こえて来ます。
とにかく浮浪者の吐瀉エキスだけでも洗い流さねば!と、僕は焦りに焦って身体をシャボンだらけにしました。

しかし、しかし!・・・・
嗚呼・・・このシャボンを洗い流すのは、身を斬るように冷たい水道の水しかないのです・・・・
湯で流したら元もこうもありません、また一から出直しやり直しなのです!

「はい、あと2分!」
こわっぱ役人が、小さな視察口から勝ち誇ったように裸の罪人を見て笑っています。

ええい!もう面倒クセぇや!と、僕は身体中に水道の水をぶっかけました。
気分はもう、開き直った長渕剛です!
へい!ほー!へい!ほー!へい!ほー!へい!ほー!
極寒なブタ箱の浴室で、そう気合いを入れながら全身に冷水をぶっかけます。
狂ったように冷たいです。
水をぶっ被る度、身体中をカミソリの刃で斬り刻まれるような痛みが走ります。
しかし、このままではこのままです、でもそのままが一番かもよ。
そう思いながらも僕は、精神異常者の如く、ひたすら水を被り続けました。
そして最後に、ざまぁみろ!とばかりに頭から水道の水をぶっかぶっておもわず「ぐわっ!」と叫び声をあげると、小窓から覗いていた小役人がケラケラと笑いながら「冷水健康法?」と聞いたのでした。



これが僕のブタ箱入浴地獄体験談です。
この後、頭に来た僕は、小役人の見ている前でバスタブの中に小便をやらかし、小役人に酷く怒られたのを今でもよく覚えてます・・・・。



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